

監修医師:
日浦 悠斗(医師)
目次 -INDEX-
代理によるミュンヒハウゼン症候群の概要
代理によるミュンヒハウゼン症候群(Munchausen Syndrome by proxy:MSBP)とは、子どもに怪我や病気を負わせ、献身的な看護をおこなうことで心の安定を図ろうとする精神疾患の一種です。加害者の多くは母親であることがわかっており、医師には「熱心な母親である」という印象を与えます。
加害者の行動や訴えにはいくつかのパターンがあると考えられています。その一つは、実際に子どもに何らかの薬剤を飲ませたり、けがを負わせたりして子どもに身体の不調を作り出すケースです。
一方で、危害は加えずに、実際は無症状であるにも関わらず、症状があると強く訴えて受診するケースもあります。また、子どもの尿に血液を混ぜて血尿が出ているなどと虚偽の不調を訴える事例もあります。
被害者である子どもは受傷の原因に応じてさまざまな症状が現れることがあり、発熱や吐き気、嘔吐のほか、意識障害、無呼吸などを呈し、死亡する事例もあります。
代理によるミュンヒハウゼン症候群のはっきりとした原因はわかっていないものの、加害者が幼少期に辛い出来事を経験し、何らかのトラウマを抱えていることが想定されています。子どものけがや病気を通して周囲の関心を集め、自分の重要性や居場所を見出そうという心理がはたらくのではないかと考えられています。
代理によるミュンヒハウゼン症候群では、被害者である子どもに侵襲的かつ不要な検査を受けさせたり、命に関わる障害を負わせたりする可能性があります。受診時の状況で代理によるミュンヒハウゼン症候群が疑われた場合には、子どもと保護者を隔離し、その様子を観察するなどの専門的な介入が必要です。
代理によるミュンヒハウゼン症候群の診断は決して容易ではありません。医療機関は診断や適切な治療のため、必要に応じて保健所や保健センターなどの機関や、警察、弁護士などと連携して情報収集をおこなうケースもあります。
代理によるミュンヒハウゼン症候群の原因
代理によるミュンヒハウゼン症候群の明らかな原因については特定されていません。しかし、発症にはさまざまな心理社会的要素が関与していると推測されています。
例えば、自身が幼少期に育児放棄を経験したり、若年で最愛の人を亡くしたりするなど、何らかのトラウマを抱えていることが考えられます。このような状況にある人は、子どもの怪我や病気という事柄を通し、過去に自分が受けられなかった配慮を受けようとしている可能性があります。
実際に海外でおこなわれた調査によると、代理によるミュンヒハウゼン症候群の発症者は、「病気の子どもの親」という立場を利用して、自分の居場所を見つけようとしていたことを認めている事例もあります。
代理によるミュンヒハウゼン症候群の前兆や初期症状について
代理によるミュンヒハウゼン症候群の発症者の多くは母親であることがわかっています。加害者である母親は、自分の子どもにさまざまな手段で身体に不調を負わせたり、ありもしない症状を訴えたりして医療機関を受診します。
例えば、加害者は子どもに何らかの薬剤を飲ませたり、窒息させたりして危害を加えることがあります。また、実際には子どもに危害を加えていないものの、体温計を操作して高体温を偽ったり、子どもの尿に血液を混ぜたりして症状を偽装するケースもあります。このほか、子どもが無症状であるにも関わらず、症状があると強く訴えて受診することもあります。
一方、被害者である子どもには、受傷時の状況に応じてさまざまな症状が見られます。比較的多い症状として、出血やけいれん、呼吸障害、意識障害、体重の増加不良、吐き気、嘔吐、発熱、高血圧、発疹、重度の感染症などが挙げられます。
代理によるミュンヒハウゼン症候群の検査・診断
代理によるミュンヒハウゼン症候群の診断は困難なケースが多く、特に加害者が医療知識を持ち、巧妙に症状を偽装する場合には発見が難しくなります。
加害者と子どもに問診をおこない、子どものこれまでの病歴などを確認します。問診時の状況で代理によるミュンヒハウゼン症候群が疑われる場合には、警察や弁護士と協力の上ビデオ撮影などをおこない、加害者と思われる保護者の言動や行動などを観察することもあります。
このほか、過去に受診した医療機関や保健センター、保健所などの福祉機関、学校などと連携し、情報共有をすることもあります。また、子どもに入院してもらった上で症状の変化を観察するケースもあります。
代理によるミュンヒハウゼン症候群の治療
まずは加害者である保護者と被害者である子どもを隔離し、子どもに必要な治療をおこなったり症状の変化を観察したりします。
また、代理によるミュンヒハウゼン症候群の発症者には、「認知行動療法」などの心理療法がおこなわれることがあります。
認知行動療法とは、ストレスやトラウマによって形成された認知や行動パターンを修正し、適応的な思考や行動を促す治療法です。本来はうつ病に対する治療法として開発されましたが、他にも幅広い精神疾患への効果が期待できます。
具体的には、専門医のサポートのもと、ストレスやトラウマの原因となる出来事を思い起こし、それに伴う偏った考え方や感情、行動を少しずつ改善していくというプロセスで治療がおこなわれます。
代理によるミュンヒハウゼン症候群になりやすい人・予防の方法
代理によるミュンヒハウゼン症候群になりやすい人や予防の方法については明らかになっていません。
しかし、幼少期に育児放棄を受けたり、大切な人が亡くなったりして何らかのトラウマを抱えている場合には、代理によるミュンヒハウゼン症候群を発症する可能性もあります。このような場合には、子どもの怪我や病気を通して医療を受け、自分の重要性を見出したり居場所を確保したりしようとする心理がはたらくケースがあります。
発症を予防するためには、トラウマや精神的ストレスに対処することが役立つケースもあります。そのためには、医療機関でカウンセリングや専門治療を受けることも有効です。
いずれの場合にも、一人で抱え込まず、信頼できる周囲の人や専門機関に相談することが大切です。
関連する病気
- 心的外傷後ストレス障害(PTSD)
- ミュンヒハウゼン症候群
- 境界性パーソナリティ障害
- うつ病
参考文献
- 公益社団法人日本小児科学会 「8.代理によるミュンヒハウゼン症候群」
- 南部さおり著 「児童虐待としての代理人によるミュンヒハウゼン症候群-社会・医療・司法手続きにおけるMSBPの問題点-」
- 山口日名子他 「代理者の子と代理人による虚偽性障害の親-その特徴と医療の対応-」
- 公益社団法人日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会 「4-7.Medical Child Adues(いわゆる代理によるミュンヒハウゼン症候群を含む)」
- Munchausen Syndrome Weber B, Gokarakonda SB, Doyle MQ. Publication Details
- 文部科学省 CLARINETへようこそ 第二章 心のケア各論 「Ⅳ 外傷体験・危機的事態への対処法」
- NSNP病院 国立精神・神経医療研究センター 「そもそも認知行動療法(CBT)ってなに?」
- Factitious Disorder Imposed on Self (Formerly Known as Munchausen Syndrome)