

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
目次 -INDEX-
早発卵巣不全の概要
早発卵巣機能不全は、40歳未満の女性において卵巣の機能が正常よりも早く低下する疾患です。卵巣からのエストロゲン分泌の減少や、卵子の成長・排卵が不十分になることで、月経不順や無月経、不妊といった問題を引き起こします。また、骨密度の低下による骨粗しょう症や、心血管疾患のリスク増加など、健康全般に長期的な影響を及ぼすことがあります。さらに、心理的なストレスや、生活の質の低下も患者にとって大きな課題です。
早発卵巣不全の原因
POIの原因は、多様な要因が絡み合って発症すると考えられていますが、大きく以下の3つに分類されます。
1. 遺伝的要因
遺伝的な異常は、早発卵巣機能不全の主要な原因の一つとされています。ターナー症候群などの染色体異常や、FOXL2やFMR1遺伝子の異常が関与するケースがあります。ターナー症候群では、性染色体の欠損が卵巣の発達に影響を与え、早期の卵巣機能低下を引き起こします。一方、FMR1遺伝子の異常は、特に家族性早発卵巣機能不全の原因として知られています。
2. 自己免疫の関与
自己免疫疾患が原因となる場合もあります。この場合、免疫系が自分の卵巣組織を攻撃することで卵巣機能が低下します。特に、甲状腺機能低下症やアジソン病のような自己免疫疾患が早発卵巣機能不全の背景にあることがよく知られています。
3. 医原性
がん治療に伴う化学療法や放射線治療、または卵巣に対する手術が原因で卵巣の機能が低下する場合があります。これらの治療は、卵胞細胞に直接ダメージを与えることがあり、治療後に早発卵巣機能不全が発症するリスクを高めます。
早発卵巣不全の前兆や初期症状について
早発卵巣機能不全の主な症状は以下の通りです。
- 月経周期の不規則化や無月経
- ほてりや発汗、睡眠障害など、更年期に類似した症状
- 骨密度の低下に伴う骨折リスクの増加
- 心血管疾患リスクの増加
これらの症状は、エストロゲンの欠乏が主な原因であり、早期に対応しない場合、生活の質や健康状態に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
早発卵巣不全の検査・診断
診断は、月経不順や無月経が見られる患者に対して、詳細な問診、身体診察、血液検査、画像検査を組み合わせて行います。
1. 臨床診断基準
卵巣機能不全の診断には、患者の月経状況やホルモン値を評価することが重要です。欧州ヒト生殖医学会のガイドラインでは、4カ月以上の希発月経または無月経を呈し、4週間以上の間隔を空けて測定した血中FSH値が25IU/Lを超える場合に卵巣機能不全(早発卵巣不全として)と診断するとしています。一方、日本では、3カ月以上の続発性無月経に加え、4週間以上の間隔を空けて測定した血中FSH値が40IU/L以上、かつ血中エストラジオール(E2)値が感度以下である場合に卵巣機能不全と診断します。
2. 血液検査
- 卵胞刺激ホルモン(FSH):25-40mIU/mL以上で高ゴナドトロピン性無月経と診断されます。
- エストラジオール:低値(測定感度以下の場合が多い)。
- ミュラー管ホルモン(AMH):卵巣予備能の指標として用いられますが、診断基準には含まれません。
3. 画像検査
- 超音波検査:卵巣の大きさや卵胞の有無を確認します。残存卵胞が見られない場合、卵巣機能不全の可能性が高いです。
- MRIやCT:特定の基礎疾患(腫瘍や感染症など)の除外のために行われることがあります。
4. 染色体検査および遺伝子検査
染色体異常(ターナー症候群など)の診断や、FMR1遺伝子プレミューテーションの有無を確認します。
早発卵巣不全の治療
1. ホルモン補充療法(HRT)
エストロゲンとプロゲステロンを補充することで、早発卵巣機能不全によるエストロゲン欠乏症状を緩和することが可能です。これにより、更年期症状の緩和、骨密度の維持、心血管疾患リスクの軽減が期待されます。ただし、ホルモン補充療法には乳がんや血栓症のリスクが伴うため、治療を開始する前に個別のリスク評価を行う必要があります。
2. 不妊治療
早発卵巣機能不全では自然妊娠の可能性が非常に低いですが、卵子提供による体外受精が有効な選択肢となることがあります。また、近年では、卵巣機能を刺激する治療法や、卵巣組織を凍結保存する技術が注目されています。これらの新しい技術は、POI患者における妊娠の可能性を広げる期待が寄せられています。
早発卵巣不全になりやすい人・予防の方法
早発卵巣不全になりやすい人
以下の条件に該当する女性は、早発卵巣機能不全を発症するリスクが高いとされています。
- 家族に早発卵巣機能不全の既往歴がある場合
- 自己免疫疾患を持つ場合
- 治療(化学療法や放射線治療)を受けたことがある場合
予防の方法
現時点で、早発卵巣機能不全を完全に予防する方法はありません。ただし、リスクを低減するためには以下のような対策が考えられます。
- がん治療を受ける際、卵巣機能を保護する薬剤や手技を利用する
- 定期的な健康診断を受け、卵巣機能の低下を早期に発見する
- 早発卵巣機能不全のリスクがある場合は、卵巣組織の保存や卵子凍結などの技術を検討する
適切な情報提供を受け、早期発見と治療を行うことが、早発卵巣機能不全による健康への影響を最小限に抑えるために重要です。
関連する病気
- 自己免疫性卵巣疾患
- 化学療法や放射線治療
参考文献
- National Collaborating Centre for Women’s and Children’s Health. Full Guideline2015. Menopause2015.
- Coulam CB, et al: Incidence of premature ovarian failure. Obstet Gynecol 1986; 67: 604-606.
- Van Kasteren YM, et al: Premature ovarian failure. Hum Reprod 1999; 5: 483-492.