パレスチナ自治区ガザ地区でイスラエル軍が戦闘を開始してから7カ月以上が経過する中、ガザ地区の出口戦略を巡る懸念が再燃している。イスラエルが一度は制圧を表明した地域でもイスラム組織ハマスが再結集する動きが出ており、戦況が泥沼化しているからだ。イスラエルのネタニヤフ政権は、当初から戦後体制に関する「青写真」が欠けていると指摘されてきたが、その不安が現実のものとなりつつある。
「ネタニヤフ首相は、ガザに関して(イスラエル人が)文民による統治も、軍による統治もしないと決断すべきだ。軍事的にも、安全保障の面でも危険だ」。ガラント国防相は15日の記者会見で、ネタニヤフ氏に公然と要求を突きつけた。軍事作戦で成功するには、ハマスに代わる統治体制の確立が不可欠だと主張し、ヨルダン川西岸の一部を統治するパレスチナ自治政府の関与を求める姿勢を見せた。
政権内では以前から、極右勢力がガザへの再入植などの強硬策を主張しており、ガラント氏の発言で、政権内の意見の不一致がより浮き彫りになった形だ。一方、ネタニヤフ氏は16日、SNS(ネット交流サービス)に投稿した動画で、ハマスの壊滅を優先する意向を強調した。
イスラエル軍はガザ地区の北部から南部に軍を進め、現在は最南部のラファ周辺に部隊を集めている。ただ、一度は制圧を表明した北部でも、「ハマスが部隊を再編する動きがある」として再び攻撃を強化するなど、戦線の拡大を余儀なくされている。
こうした状況に懸念を強めているのが、バイデン米政権だ。米国は出口戦略の見通しが甘いまま、2001年の米同時多発テロ後にアフガニスタン攻撃に踏み切り、03年にはイラク戦争を主導。だが、アフガンでは一度は排除したはずのイスラム主義組織タリバンが21年に復権し、イラクでは過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭を招いた。
ハマスもタリバンと同様に地元に根付いた組織で、完全に壊滅するのは容易ではないとみられている。米国のブリンケン国務長官は今後、「(ガザが)混乱や無政府状態に陥り、ハマスが再び台頭する可能性がある」と警告。キャンベル国務副長官もイスラエルがハマスに「全面的な勝利」を収めるのは困難とし、「政治的な解決策が必要だ」との認識を示した。
ただ、ネタニヤフ氏は強硬姿勢を崩していない。西岸に加え、ガザ地区の統治に自治政府が関与すると、パレスチナとの「2国家共存」に向き合う必要が出てくる。ネタニヤフ氏自身がパレスチナの独立に否定的な上、極右が強く反発し、政権が崩壊する可能性もある。
ネタニヤフ氏は15日の米テレビとのインタビューで、ラファでの軍事作戦が「数週間かかる」と主張しており、さらなる人道状況の悪化が懸念されている。【ワシントン松井聡、エルサレム松岡大地】
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