横浜がアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)で悲願の初優勝に挑む。

中東の強豪アルアイン(UAE)と11日にホーム、25日にアウェーで対戦する。「トリコロールの決戦」と題して、決勝に向けた話題を紹介する。第1回はMF水沼宏太(34)の思い。父貴史さん(63)は日産自動車(現横浜)時代にACLの前身、1989-90年アジアクラブ選手権で決勝まで勝ち上がったが敗れている。父の期待も背負い、大一番に向かう。

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トリコロールを身にまとい、1980年代後半の日産自動車は国内タイトルを総なめにした。その当時の主力の1人が貴史さんだった。華麗なボールタッチで攻撃を組み立て自らも得点する。オスカー監督のもと89-90年の大会で決勝へ進出。遼寧東葯(中国)と戦い、1-2、1-1の2戦合計2-3と惜敗した。

宏太はその90年の2月生まれ。もちろん当時の記憶はない。「日産がアジアの大会で結果を残したと聞いていた。父はアジアをめちゃくちゃ経験しているし、結果も残している。父と同じように歴史に名を刻めるという喜びがあります」。

日産自動車はクラブ選手権に敗れた翌91年、各国のカップ戦王者が集うアジア・カップウイナーズカップで優勝している。ただシーズンを勝ち抜いた真の王者が集うクラブ選手権の方が価値は高い。だからこそクラブにとっても悲願のアジア制覇となってくる。

03年から大会はACLと変更されたが、前身大会も含めて横浜(日産自動車)は9回出場。決勝進出は貴史さんがいた時以来、34年ぶり2度目だ。16強が2回、1次リーグ敗退が5回と苦戦を強いられてきた。現地への移動、異なる文化や雰囲気。ピッチ外の要素がより多く絡むからこそ、たくましさが求められる。

宏太はアジアに強い。06年のアジアU-17選手権(シンガポール)で日本代表の主将として優勝し、W杯出場を手にした。10年にはU-21代表で臨んだアジア大会(中国)でも金メダルを獲得。決勝の相手は今回のACLと同じ「UAE」だった。「みんなより経験しているのはある。気持ちの部分とか、こういうところにスキがあるというのを話したい。アウェーではとんでもないものが待っているかもしれないが、あまり意識せずにやる」。

逆境、非日常が大好き。「“ど”アウェーは楽しい。高ぶる試合があれば黙らせたい。ACLも中国のアウェーは一番楽しかった。フィリピンもスタジアム、街の感じとかも」。Jリーグと並行する超過密日程にも「マインドを変える必要がある」と意に介さない。環境を受け入れ、ポジティブに捉えられるところは明るい父親譲りなのだろう。

貴史さんは解説者として見守る。「ACLなら完全にマリノスを応援できるからやりやすいって言われます。絶対に優勝してほしいと願っているので応えたい。ここは父と一緒に戦う。肩を並べるためにもこのタイトルは絶対に取らなきゃいけない」。34年の時を超える勝利へ、父と同じ右サイドをひた走る。【佐藤隆志】

◆トリコロール チームカラーは赤、白、青のトリコロール。フランスの三色旗を想起させるものだが、横浜の赤は「瞬発力と情熱」、白は「集中力と潔白さ」、青は「冷静さと港町・横浜の海」を表している。

○…横浜はACLを前にした浦和戦に1-2と敗れた。エースのA・ロペスが警告累積で不在となる中、攻めきれなかった。準決勝で蔚山(韓国)を下した後は、C大阪、磐田と引き分けるなど2分け1敗と勝ち星なし。キューウェル監督は「ファイナルサードの丁寧さが足りない。ただ中央のボールを収めるところが改善されればうまくいく」と悲観はしていない。今季は無得点が続くFW宮市も「信じてやり続けるしかない。ひたむきにゴールを目指す」と誓った。