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護憲派か改憲派かという政治的立場を超えて、私たちの戦後社会は、日本国憲法との関係に規定されてきました。非民主的な国が増える今、そこで育まれた市民意識にはどんな意義と限界があるのか。「その先」で何をなすべきか。東南アジアへの日本の民主化支援、中国の影響力工作などを研究する市原麻衣子・一橋大教授と考えました。【オピニオン編集部・鈴木英生】
日本は「意識が低い」と言われがちだけど
――「市民自らで民主主義を勝ち取った韓国や台湾などと比べ、日本は政治参加意識が……」といった批判があります。紋切り型かもしれませんが。
◆いや、政治参加意識はともかく、自由権についての意識は、むしろ高い方かもしれませんよ。たとえば新型コロナウイルス対策です。日本は主要国の中でも特に立憲主義、つまり「人々の自由や権利を守るため政府の行動は憲法で制約される」という原則に即した対策を取っていました。
確かに、説明責任が軽視され、非科学的で場当たり的な対応も目立ちました。が、ロックダウン(都市封鎖)やその違反者の逮捕、個人情報の収集やGPS(全地球測位システム)などによる隔離対象者の監視・追跡といった人権侵害をしませんでした。陽性者の接近を知らせるアプリも使用は任意でした。私権制限なども当然のごとくほぼ議論されず、極めて民主的な対応だったと思います。
現行憲法下の「伝統」が人権外交で役立つ
――なるほど。その視点はありませんでした。でもなぜ?
◆日本社会は、戦時中の私権制限への反発が強かったためか、国家が市民の自由や権利を制限することに慎重です。この慎重さは、現行憲法施行から77年を経て日本の「伝統」になりました。率直に評価したいですし、他国の民主主義支援でも重要な点です。
――つまり、日本ではごく常識的な意識が人権外交で役に立つ?
◆近年、たとえばインドやインドネシアなどは政府の強権化が進み、メディアやNGOなどが抑圧されています。これらの国に対して、長年にわたり植民地支配をしていた西欧諸国が人権や自由を説いても、反発されがちです。
説得力があり信頼されやすいのは、非西欧で民主主義や自由主義をある程度は体現している国、つまり日本や韓国などです。無論、日本もアジア諸国を侵略しましたが、西欧諸国に比べれば期間も短かった。また、日本の人権状況や民主主義も問題だらけですが、アジアではかなりマシな部類に入ります。
護憲が立憲主義を空洞化させるねじれ
――あえて日本社会の自由権に対する意識の問題点をあげると?
◆結果として公共的課題の解決につながらず、単なる政府への不信にとどまる傾向もあります。特に防衛政策では、この傾向が立憲主義を空洞化させています。
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