首相外遊に同行した記者は見た グローバルサウス外交の難しさ

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会談の冒頭、ブラジルのルラ大統領(右)と握手する岸田文雄首相=ブラジリアで3日、共同
会談の冒頭、ブラジルのルラ大統領(右)と握手する岸田文雄首相=ブラジリアで3日、共同

 岸田文雄首相はフランス、ブラジル、パラグアイの3カ国歴訪を終えて、6日に帰国した。南米訪問は2021年秋の首相就任以来初めてで、首相は会見で「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国との連携で「大変有意義だった」と成果を強調した。特に日本の首相として10年ぶりとなった4日の中南米政策スピーチでは、持続可能な経済協力の重要性を提唱した。

海外への経済支援に国内の批判高まる中…

 しかし、財政難で税金の使い道に厳しい目が注がれる中、日本が切れるカードは限られている。今回の外遊に同行し、実利を重視するグローバルサウス相手の一筋縄ではいかない外交の一端を垣間見た。

 「この10年間、私の中にたまり、積もったブラジルへのサウダージ(郷愁)がやっと解消できた」

 首相による中南米政策スピーチ。会場となったサンパウロ大学は中南米で最も有名な大学の一つ。伝統と荘厳さが漂うコロニアル様式の大講堂で、首相は約30分間のスピーチをこう切り出した。

 首相は外相時代の13年もメキシコ市で「中南米と共に新たな航海へ」と題して講演した経緯がある。首相は「10年にわたる航海を続け、我々の関係は互いに尊重し、学び合う、重要なパートナーへと昇華した」と語りかけた上で、こう危機感をにじませた。

 「10年前と今では、国際社会を取り巻く状況は全く異なる。我々が標榜(ひょうぼう)している自由と民主主義は、世界中で脅威にさらされている」

 念頭にあるのはウクライナ侵攻を続けるロシアや、軍事的台頭を続ける中国の存在だ。権威主義国家と日米欧は今、グローバルサウスの国々をいかに自陣営に引きつけるか、せめぎ合いを続けている真っ最中だ。

 そのため首相は、中露を念頭に、「経済的圧力を背景に特定の行動を強いる経済的威圧などは到底認められない」と指摘。日本は相手国の実情を踏まえたうえで、環境や人権に重点を置いた持続可能な成長を支援していくと説いた。そのことが「中南米との共有された繁栄だ」とも呼びかけた。

 これに対し、ネット交流サービス(SNS)上では閣僚の外遊ラッシュも含め、「海外の支援の前に国内にお金を回すべきだ」などと批判的なコメントも相次いだ。長引く物価高や、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件などを背景に、国民の不満がたまっていることを印象づけた。

 実際のところ、今回のスピーチでは、かつては一般的だった新興・途上国への多額の財政支援の新たな打ち出しは含まれていない。唯一、金銭的な支援として言及されたのは、…

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