「長時間部活、指針守って」 吹奏楽部生徒自殺、遺族が国に要望

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文化庁の担当者(右)に申し入れ書を手渡す遺族代理人の児玉勇二弁護士=東京都千代田区の文部科学省で2024年5月2日午前10時6分、西本紗保美撮影 拡大
文化庁の担当者(右)に申し入れ書を手渡す遺族代理人の児玉勇二弁護士=東京都千代田区の文部科学省で2024年5月2日午前10時6分、西本紗保美撮影

 千葉県柏市の市立柏高校で2018年12月、吹奏楽部に所属していた当時2年生の男子生徒が自殺した問題で、遺族らが2日に文部科学省を訪れ、練習時間や休養日について国の部活動ガイドライン(指針)を守るよう市に指導することを求めた文書を提出した。同校はコンクールで数々の受賞歴がある吹奏楽部の名門として知られ、市は23年4月に国の指針を上回る練習時間などを定めた独自基準の運用を始めている。

 市が設置した第三者委員会の報告書によると、生徒は18年12月の深夜、学校の屋上から転落し死亡した。当時、生徒が腰痛を理由に部活をやめる相談を顧問や家族にしていたほか、学業不振や人間関係のトラブルなど複数の悩みがあったというが、「自殺の直接的な原因は特定できない」とした。

 一方、当時生徒の部活動時間が平日で5時間半、休日で約11時間に達しており、「思考力・集中力が低下して精神的な余裕を失っていたことから悩みに対処できず、抑うつ状態になり、自殺に至ったと考えられる」と結論づけた。

 文化部活動を巡っては、文化庁が18年に策定(4年後に改定)した指針で、平日は「長くとも2時間程度」、休日は「長くとも3時間程度」と定め、休養日は「平日、土日にそれぞれ1日以上で、週当たり2日以上」と定めている。

 第三者委の報告書も、再発防止策として同校が国の指針に従うことを盛り込んだ。だが、生徒の死を受けて市が専門家の意見を元にまとめた同校の指針では、国の指針を上回る独自の基準が新たに設けられ、23年4月に運用が始まった。

記者会見で「同様の問題がまた起こってしまったら、誰が責任を取るのか」と訴える遺族の代理人弁護士ら=東京都千代田区の文部科学省で2024年5月2日午前11時21分、西本紗保美撮影 拡大
記者会見で「同様の問題がまた起こってしまったら、誰が責任を取るのか」と訴える遺族の代理人弁護士ら=東京都千代田区の文部科学省で2024年5月2日午前11時21分、西本紗保美撮影

 具体的には、練習時間は「平日3時間」「土日休日6時間」を原則上限とするが、主要なコンクール前や遠征、合宿などの「特別な場合」では、休日は事前に校長の許可を得ることで8時間まで延長できる。休養日は年間100日以上を確保し、「平日1日以上、土日は月2日以上」とするが、大会前で確保できない場合は大会後に代休を設けるとした。

 遺族側は同校と柏市に国の指針を守るよう指導することのほか、全国の自治体に指針を順守するよう周知することも求めた。

 文科省の担当者は、独自基準について「科学的根拠をもって策定されている国の指針を順守してほしい」とする一方、「指針に強制力はなく、必ずしも自治体の独自基準制定を制限できるものではない」と説明する。

記者会見でコメントを読み上げる男子生徒の父親=東京都千代田区の文部科学省で2024年5月2日午前11時35分、西本紗保美撮影 拡大
記者会見でコメントを読み上げる男子生徒の父親=東京都千代田区の文部科学省で2024年5月2日午前11時35分、西本紗保美撮影

 文科相ら宛ての文書を提出後に開かれた記者会見で、生徒の50代の父親は「(長時間練習の)背景には全国大会で金賞を取らないといけないという『勝利至上主義』があった。生徒が自分で好きで練習しているからいいというのではなく、(練習時間を)コントロールしなければならないのは大人の責任だ」と柏市の対応に疑問を呈した。

 代理人の関哉直人弁護士は、柏市の指針について「地域ごとの部活動の特性が仮にあったとしても、生徒側の事情を無視した変容は絶対許されるべきではない。放置すれば国としての責任につながる」と批判した。【西本紗保美】

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