遊んでいるのかと思ったら 田んぼで働く馬と一緒に子どもら笑顔

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スノーチューブに乗った子どもたちや、代かきのための回転式砕土機(さいどき)を引っ張りながら、水田を歩く馬=福島県浪江町で2024年4月28日午前10時59分、尾崎修二撮影 拡大
スノーチューブに乗った子どもたちや、代かきのための回転式砕土機(さいどき)を引っ張りながら、水田を歩く馬=福島県浪江町で2024年4月28日午前10時59分、尾崎修二撮影

 大きな馬が田んぼの水をじゃぶじゃぶと跳ね上げ、子どもたちの乗ったスノーチューブを引っ張る。レジャースポーツのように楽しんでいるが、実は田植え前に欠かせない代かきの作業中だ。馬による農林業技術の継承や普及に取り組む一般社団法人「馬搬(ばはん)振興会」(岩手県遠野市)が、働く馬の力を楽しく体感してもらおうと編み出したユニークな試みだ。

 「馬さん走れー」「泥水が気持ちいいね」。4月28日、青空と新緑に囲まれた福島県浪江町の約55アールの水田に歓声が響いた。人間なら足を取られる泥水も何のその、体重700キロほどの馬がチューブに乗った子どもたちを引っ張り、力強く歩き回った。

 田植え前に土を細かく砕き、水と混ぜながら整える「代かき」。現代ではトラクターの仕事だが、1960年代ごろまでは馬や牛に農具を引かせていた。古くは熊手状の「馬鍬」(読み方は「まぐわ」「まんが」)を用い、後年はとがった歯が回る回転式の砕土機(さいどき)なども使われた。

熊手状の「馬鍬」を操ったり、馬を引っ張ったりして昔ながらの代かきに挑戦する子どもたち=福島県浪江町で2024年4月28日午前11時30分、尾崎修二撮影 拡大
熊手状の「馬鍬」を操ったり、馬を引っ張ったりして昔ながらの代かきに挑戦する子どもたち=福島県浪江町で2024年4月28日午前11時30分、尾崎修二撮影

 この日、子どもたちは昔ながらの代かきにも挑戦。馬鍬を操ったり、馬を引っ張ったり大はしゃぎで泥だらけになった。福島市の小学1年、高橋茉優(まゆ)さん(6)は「(馬鍬を操った時は)ちょっと転びそうだったけど転ばないで走れた。馬と田んぼに入れて楽しかった」と笑顔だった。

 馬搬振興会の代表、岩間敬さん(45)は、岩手県や新潟県を中心に、馬を使って田畑を耕す「馬耕(ばこう)」、山から木を運び出す「馬搬」の文化継承に取り組む。4年ほど前、雪遊びに使うゴム製のソリ、スノーチューブを回転式砕土機の後ろに取り付け、人が乗って馬に引っ張ってもらう新たな代かきスタイルを編み出した。伝統的な手法より人も馬も楽なうえ、複数のチューブを連結することで、乗った人たちは水田をどんぶらこと揺られながら、働く馬の力強さを間近で体感できるようになった。

 イベントは、乗馬体験などに取り組む地元のNPO法人「相馬救援隊」が岩間さんを招いて実現した。岩間さんは「馬は祭りに出るだけでなく、実際に人の暮らしの役に立っていたという原点も知ってほしかった」と話す。「馬耕や馬搬をやりたい」という声は各地で徐々に増えているとし、「認定制度を設けるなどして、安全に実践できる人を増やしていきたい」と語った。

 田んぼを貸した半谷啓徳(よしのり)さん(37)は「馬耕を見るのは初めて。良い経験になった」。周辺は東京電力福島第1原発事故で2017年春まで避難指示が出ていたが、水田のある酒田地区はコメの出荷について安全性を確認したうえで14年に再開。徐々に作付面積を増やし、現在は半谷さん一家で約10ヘクタールを作付けする。【尾崎修二】

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