嫌われ者のカビが生み出す 「想像もできない物質」が持つ力
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小林製薬のサプリメントによる健康被害問題では、カビが作る物質が原因の候補とされている。何かと嫌われがちなカビだが、20世紀にはカビから次々に薬が発見され、多くの人の命を救ってきた。そしてカビは今も「宝の山」で、薬のもとを探す研究が続けられている。研究者が「カビはすごい」と語る理由に迫った。
眠っている能力を引き出す
「カビは薬の源です」。こう断言するのは、カビなどの微生物が作る天然化合物を長年研究している理化学研究所環境資源科学研究センターの長田(おさだ)裕之ユニットリーダーだ。
長田さんの研究チームは2021年、麦類に赤かび病を引き起こすカビの一種「フザリウム」から、感染症のマラリアに効果のある新規物質を発見した。
カビなどの微生物は、飢餓や光、温度、敵の襲来といった外部刺激に反応し、さまざまな種類の天然化合物を作る能力を持っている。人類はそうしたカビが作った天然化合物を薬として利用してきた。
「20世紀最大の発明の一つ」と言われ、世界初の抗生物質とされるペニシリンは、培養皿に偶然紛れ込んだ青カビから発見された。「第2のペニシリン」とも呼ばれる血中コレステロール値を下げる治療薬「スタチン」も、カビから見つかった。
ただ、人類が薬として使うような天然化合物は、カビにとっては生命維持に必須ではないことがほとんど。そのため、普通に培養していただけでは、化合物の産生能力は眠ったままのことが多い。
長田さんは、カビの能力を引き出す化合物を探していたところ、長らく機能が分かっていなかった「NPD938」というカビが作る物質が、その効果を持っていることを突き止めた。
これをフザリウムに与えたところ「ジヒドロルシラクタエン(DHLC)」という新たな物質を作るようになった。DHLCの働きを調べると、マラリアを引き起こすマラリア原虫の生命維持に必要な酵素の働きを阻害することが分かった。カビの眠っていた能力が引き出された、というわけだ。
「フザリウムとマラリアは自然界では接する機会がない。土の中にいる別の微生物に対抗するためのDHLCが、たまたまマラリアに効いたということでしょう」と長田さんは推測する。
土の採取から始まる「宝探し」
マラリアは蚊が媒介する感染症で、エイズ、結核と並んで3大感染症と呼ばれる。世界保健機関(WHO)の報告によると、21年の1年間で約2億4700万人が感染し、61万人以上が死亡したと推計される。
治療薬はいくつかあるが、薬剤耐性が問題となっている。DHLCは従来の治療薬とは異なるメカニズムでマラリア原虫に効いている上、ごく微量で強力に作用して、動物細胞には害を与えない。そのため、薬として使える可能性があるという。
カビが産生する物質を巡っては、小林製薬の紅こうじサプリメントによって健康被害が出ている問題で、青カビがつくる天然化合物「プベルル酸」の関与が疑われている。プベルル酸もマラリア原虫に…
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