JR切符で地元バスも 岩手で「ライバル」が過疎化対策でタッグ

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JR盛岡駅前に到着した岩手県宮古市からの「106バス」。4月から競合するJRの乗車券でも利用できる実証実験が行われている=盛岡市で2024年4月23日午後3時50分、高橋昌紀撮影
JR盛岡駅前に到着した岩手県宮古市からの「106バス」。4月から競合するJRの乗車券でも利用できる実証実験が行われている=盛岡市で2024年4月23日午後3時50分、高橋昌紀撮影

 JR東日本盛岡支社が地元の岩手県北バスの協力を得て、東日本地域では初となる鉄道・バス連携の実証実験を4月1日にスタートさせた。盛岡市と岩手県宮古市を結ぶJR山田線の乗車券があれば、同区間を併走するバスを利用できる。本来はライバル同士の鉄道とバスだが、過疎化などによる利用者の減少という共通の悩みを抱え、タッグを組むこととなった。

 盛岡支社は収集したデータを元に山田線のダイヤ改正なども視野に入れており、担当者は「地域交通の利便性を高めれば地域は元気になる」と期待を寄せる。

岩手県宮古市と盛岡市を結ぶJR山田線。両市周辺の通勤通学利用が主になっている=宮古市で2022年7月27日午後1時28分、奥田伸一撮影
岩手県宮古市と盛岡市を結ぶJR山田線。両市周辺の通勤通学利用が主になっている=宮古市で2022年7月27日午後1時28分、奥田伸一撮影

 4月23日午後のJR盛岡駅前バス停。オレンジ色が鮮やかな通称「106バス」の扉が開き、乗客たちが降りてきた。宮古と盛岡を結ぶ国道106号にちなんだバス路線だ。

 岩手県山田町の実家を訪れていたという西東京市のパート従業員、芳賀しず子さん(67)が、宮古―東京間のJRの切符をみせてくれた。「バスの乗車券を買う手間が省け、楽でした」とほほ笑み、「JRの方が運賃も少し安く、得をした気分」と付け加えた。

 JR山田線は現在、盛岡―宮古間を1日8本、川内―宮古間を1日3本運行している。2022年度の平均通過人員(1日1キロ当たりの利用客数)は79人で、JR東の在来線全66線区では最少。国鉄分割・民営化の1987年度比では93%も減っている。

 特に21年度に盛岡市と宮古市を結ぶ復興支援道路が全面開通。競合する106バスの両市間の所要時間が約30分も短縮され、最速1時間40分となった。対する山田線は最速2時間19分。利便性では大きな差がついている。

バスとの実証実験を実施しているJR山田線
バスとの実証実験を実施しているJR山田線

 そうした中で、宮古市にあった山田線・平津戸駅を22年3月に休止(翌年に廃止)したことが一つのきっかけになり、今回の実証実験のアイデアが浮上した。

 「駅周辺の7軒に休止の説明に回ったところ、『行きはバス、帰りは列車』という声があった」。盛岡支社企画総務部の井上宏和担当部長は振り返る。

 106バスはJRの倍以上の計24本(急行・特急)を運行中。これと組み合わせれば「地元住民は使いやすくなる」。鉄道事業法に適合させるなどの検討課題があったが、JR四国の同じような取り組みが参考になった。

 一方の県北バス。「1978年の運行開始時は『列車より早く、マイカーより快適』がキャッチフレーズ。山田線は競争相手だった」と、高速路線部の荒屋敷正剛部長は語る。

 ただし、自家用車の普及と人口減少の影響を受け、最盛時に30万人を超えた利用者は2023年度には約17万人までに減少。荒屋敷部長は「JRと協力することで、地域全体の利便性が高まる。観光客の増加につながれば経済効果も生まれる」と期待を寄せる。

 全国的に赤字路線の存続問題が議論される中で、JR東の方針は「地域に最適な輸送形態」を「地域と共に考えること」という。実証実験は25年3月31日に終える予定。盛岡支社では収集したデータを精査し、地元住民がより利用しやすいようなダイヤ改正などを検討していく。

 久保公人支社長は24年4月24日の定例会見で「これまでの実証実験で、1日当たり10~20人の利用があった。東京―宮古間の利用者も多く、思ったよりも使ってくれている。(地元の人は)生活パターンを変えることのハードルが高いが、2倍くらいには増えてほしい」と手応えを示した。【高橋昌紀】

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