それでも「ヘイト本」を置くワケ ある書店員の戦略と葛藤

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「書店は本を介して主張と主張が正面からぶつかり合って闘う『言論のアリーナ』であるべきではないか」と語る書店員の福嶋聡さん=大阪市北区で2024年4月16日、梅田麻衣子撮影
「書店は本を介して主張と主張が正面からぶつかり合って闘う『言論のアリーナ』であるべきではないか」と語る書店員の福嶋聡さん=大阪市北区で2024年4月16日、梅田麻衣子撮影

 始まりは10年前のあるイベントだった。

 「それでも、書店の人間として『ヘイト本』を書棚から外すという選択はしません」

 丸善ジュンク堂書店で働く福嶋聡さん(65)はそう公言してから、「ヘイト本を外さない理由」を自問してきた。隣国への憎悪をあおる、いわゆる「ヘイト本」には批判的な立場だ。だけど、書店人として排除はできない。ならば闘ったら? 悩みながら「言論のアリーナ(闘技場)としての書店」という考え方にたどりついた。

 傍観ではなく、中立でもない。「アリーナ」とはどんな場なのだろう。新著『明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか』(dZERO)を刊行した福嶋さんに聞いた。

「ヘイト本」規制にNO

 2014年12月、大阪市内。ヘイト本の出版が相次ぐ状況を批判するイベントが開かれ、福嶋さんは一観客として客席の最前列にいた。

 「在日の人たちに心の傷を与える『嫌韓本』はヘイトクライムであり、規制して当然」「相手の『表現の自由』をあらかじめ奪い、沈黙を強いる者たちの言説は、『表現の自由』には値しない」。登壇した出版人らはそう意見した。その後、急にマイクを向けられた福嶋さんが発言したのが、冒頭の言葉だ。

 当時を振り返ることから始まる本書は、ヘイト本を置くということ、ひいては書店の存在意義についてさまざまな角度から徹底的に向き合う。<その本はなぜ、多くの人を惹(ひ)きつけるのだろうか><弱者攻撃の動機は、どこから来るのだろうか>。各章題が示すように、問いに問いが連なる。引用される書籍は60冊以上。さまざまな本を手がかりに、著者自身が思考を深めていく学びの記録でもある。

胸に刻む鈴木邦男さんの言葉

 なぜヘイト本を外さないのか。

 「理由の一つに、どこで…

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