阪神糸原健斗内野手(31)は球場入り後に今季初先発を知った。「いつも準備しているので、いつも通り入るだけでした」。冷静だが、心は燃えていた。

第1打席は2回。無死一、三塁の絶好機に回ってきた。追い込まれ、4球目はワンバウンドしそうな低いフォーク。懸命にバットを差し出した。打球は中前にライナーで飛び、先制の1点をもたらした。

「なんとかしたい気持ちでした。自分らしい打撃ができたと思います。あそこから乗っていけた部分もあるので」。自身だけでなく、ベンチは大盛り上がりだった。4回にも内角球を左翼線に落とし、8回は左翼にクリーンヒット。昨年から代打中心になった男が、22年9月以来の1試合3安打をマークした。

不振が続く佐藤輝の“代役”だが、大砲のマネはできない。自分らしさを出すだけだ。「大ぶりしていましたね」と言うのは開星(島根)時代。長打力を誇っていたが明大入学後ほどなく、現実を知る。それ以来、バットを短く握ってきた。「この体ですから。何を求められているかを考えてやるようになりました」。低く強い打球を打つことを突き詰めて一流になった。そして前日27日、ついに国内FA権の条件を満たした。

前日までの15打席はすべて代打で打率3割3分3厘。数字だけではない。内野ゴロでの打点、犠飛、進塁打。12日の中日戦では12球粘って四球を取り、土壇場の同点劇を導いた。凡飛は最初の1打席だけだ。

岡田監督も「最近の内容を見ていて、いつ(先発で)いこか、と。準備をしていたんじゃないですかね。そういう感じがしますね」と目を細めた。

昨年も先発は7試合だけ。どっぷりと試合に入っている喜びがあった。「久しぶりに超満員の甲子園で守備について、4打席立って。まあ、いい結果が出たのでよかったです」。これぞ仕事人の存在感だった。【柏原誠】

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