インドカレー店なぜ増えた? カギは営むネパール人の「柔軟さ」

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日本人にはすっかりおなじみのインドカレー店
日本人にはすっかりおなじみのインドカレー店

 ふっくらとしたナンに、濃厚なバターチキンカレー、香ばしいタンドリーチキン。そんなメニューでおなじみのインドカレー店だが、その多くを切り盛りしているのは、インドの隣国ネパールの人々だとご存じだろうか。全国各地で急増した「ネパール人によるインドカレー店」。日本で外食文化の一角を占めるまで成長した背景には、ネパール人の「柔軟さ」があるという。どういうことだろう。

まるでチェーン店?

 「2014年に約10年暮らしたタイから帰国した時、ずいぶん増えたなという印象を受けました。地方でも、どこに行ってもインドカレー店の看板を見かけるようになりましたよね」

 そう語るのは、旅やアジアに関する著書の多いジャーナリストの室橋裕和さん。「店に入ると、さりげなくネパールの国旗やヒマラヤの写真が飾られている。そして、どの店のメニューも、チェーン店かのように似通っているのが不思議でした」

 「インドカレー」といえば欠かせないのがナン。だが実際のインドでは、チャパティやロティという薄いパンの方が一般的だ。さらにネパールでは、ダルという豆の煮込みとライスが定番。では、おなじみの「インドカレー」は、どうやって生まれたのか。そして、なぜ食文化の違うネパール人が作っているのか。新著『カレー移民の謎』(集英社新書)で、その理由を探った。

「高級料理」が定番メニューに

 中高年世代には「インド料理」と聞いて、ちょっと高級な外国料理をイメージする人もいるかもしれない。「宮殿風の内装で、チョウネクタイを締めた彫りの深いおじさんが給仕する。昔は、そんなイメージがありましたよね」と室橋さん。

 インド料理が日本で本格的に広まったのは戦後にさかのぼる。東京の銀座などでインド人オーナーがレストランを開業。修業したシェフが独立し、新たな店が少しずつ増えていった。その際、本国では高級料理に位置づけられるナンやタンドリーチキン、バターチキンカレーなどが定番メニュー化した。

 こうした店で働いていたのがネパールの人々だ。農業と観光以外に大きな産業のないネパールは、海外に移住して働く人が多い「出稼ぎ国家」。もともと隣国であるインドの外食産業で働いていた人も多かった。そうした人々が日本のインド料理店でも働くようになり、やがて自分の店を持つ――。そんなふうにネパール人経営の店は存在感を増していった。

「出稼ぎ」が支えるインドカレー

 爆発的に増えたのは00年代だ。

 背景に、そもそも日本に住むネパール人が急増していることがある。出入国在留管理庁によると、日本で暮らすネパール人は23年6月末時点で約15万6000人。03年末の約5000人から20年で30倍以上に増えた。一方、在日インド人は23年6月末で約4万6000人で、20年前の3倍強にとどまる。かつてはネパール人より多かったが、10年代に入って逆転した。

 なぜこれほど増えたのか。…

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