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村上春樹をめぐるメモらんだむ

現代作家として国際的に高い評価を受けている村上春樹さん。小説の執筆だけでなく、翻訳に、エッセーに、ラジオDJにと幅広く活躍する村上さんについて、最新の話題を紹介します。

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村上春樹さんの文学的井戸 「我々は『小説的に』繫がっている」

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「春のみみずく朗読会」で新作「夏帆」を朗読する作家の村上春樹さん=早稲田大学大隈講堂で2024年3月1日(早大国際文学館提供)
「春のみみずく朗読会」で新作「夏帆」を朗読する作家の村上春樹さん=早稲田大学大隈講堂で2024年3月1日(早大国際文学館提供)

 3月上旬、村上春樹さんに約1年ぶりでインタビューする機会を得た。2月に出たエッセー集「デヴィッド・ストーン・マーティンの素晴らしい世界」(文芸春秋)をきっかけにした取材だったが、同月に亡くなった指揮者の小澤征爾さんや、戦争が続く世界の現状に関する質問などにも答えてくれた。詳しい内容は毎日新聞ニュースサイトに2回に分けて掲載したので、そちらをご覧いただきたい

ジャズレコードへの尋常ではない愛

 同僚の音楽担当記者と2人で話を聞いたが、筆者にとってはこれが13回目のインタビューとなった。そのうち1回はメールのやり取りによるインタビューだから、対面での取材は12回目ということになる(うち1回は別のメディア3社との合同インタビュー)。他に、イベントや授賞式の場で言葉を交わしたことも数回あるけれど、初めて筆者が村上さんに会って取材した1997年から27年間で10回余りという数が、多いのか少ないのかはよく分からない。

 そもそも非常に多忙な作家であり、数年前まではメディアの取材も含めてあまり公の場に姿を見せなかった人だから、平均して2~3年に1度とはいっても相当の頻度と思われるかもしれない。特に、最近は3年連続でインタビューすることができたが、このことに表れているように、かつては考えられなかったほど作家自身が積極的に発言するようになったのも確かだ。個人的には、巡り合わせとはいえ多くの貴重な肉声を耳にし、伝える役回りを(不十分ながら)務められたのはありがたく、記者冥利に尽きると思っている。

 さて、3月のインタビューでは、エッセー集のテーマであるジャズレコードの話が中心だった。題名にあるデヴィッド・ストーン・マーティン(略称DSM、1913~92年)は、数多くのレコードジャケットを手がけた米国のデザイナーである。個性的な絵とデザインで名盤を飾り、世界中に多数の愛好家がいるという。1万枚を超えるジャズレコードを所蔵する村上さんも、途中からDSMの盤を意識して集めるようになり、今回の本には約180枚に上るコレクション全てのジャケットをカラー写真で収めた。

 作家デビュー時にジャズ喫茶を経営していた村上さんは、…

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