odolが10周年イヤーで拓く新たな地平、最新アルバム『DISTANCES』を引っさげたワンマンを振り返る

アーティスト

SPICE

odol

odol

odol ONE-MAN LIVE 2024 “DISTANCES” 2024.4.20(sat)下北沢ADRIFT

アンコールが終わっても帰ろうとする観客はほとんどいなかった。鳴り続ける手拍子に三たび登場したメンバー。「本当ですか……?」とこぼして笑いを誘った森山公稀(Pf)はじめ、バンド初だというダブルアンコールにちょっぴり戸惑いながらもみな心底嬉しそうな表情を浮かべている。もう演奏できるレパートリーが無いことを詫びながら、本編2曲目でも演奏した「幸せ?」をもう一度、晴れやかな空気を纏いながら弾むように披露したのだった。

……というシーンが、この日のライブの性質を何より表していたと思う。まず、odolがライブハウスでスタンディングのワンマンを行うのが実に5年ぶり(森山談)だから、ファンは相当待ち侘びていたはずだ。それに、以前のodolはもっとコンセプチュアルなスタイルを採ることも多く、実験的でアート的な側面が強いライブをしていた印象がある。用意されたセットリストを通してきっちり完結したものを見せ切る内容となればどうしても、そこに予定外のアンコールが起きる土壌はなかったのだと思う。決してこの日のライブがラフな内容や構成だったわけではない。だが、少なくともこれまで観た中でもっともパッションに溢れ、オープンで、とてもバンドらしいライブを彼らは見せくれた。そりゃあオーディエンスも帰りたくなくなるわけだ。

odol

odol

ミゾベリョウ(Vo)

ミゾベリョウ(Vo)

ライブの立ち上がりは静かなものだった。定刻を少し過ぎ、スッと暗転。オープニングSEは無く、現れたメンバーに送られる拍手が場内に満ちていく。開演前から流れていたまばらなリズムを刻むクリック音に、鍵盤やグロッケンの音色を重ねて形作られたアンビエントな音像が次第に力強さを増していき、「Distances」へ。濃いめのスモークに覆われたステージからミゾベリョウ(Vo)がファルセット混じりに歌い上げる切々としたボーカルが響く。じっくりじっくりとグルーヴを練り上げながら、次第に立体的/肉体的になっていく音は終盤になるとダイナミックなバンドサウンドへと変貌。「自由なリズムで、今日は楽しんでください」と一言告げて繋いだ「幸せ?」は、拍子はトリッキーだしShaikh Sofian(Ba)の奏でるベースラインもアブストラクトなものだが、ノリ自体はダンサブルでキャッチーでさえある。

森山公稀(Pf)

森山公稀(Pf)

Shaikh Sofian(Ba)

Shaikh Sofian(Ba)

HIP-HOP調のミドルテンポに歪んだギターの刺すような音色がアクセントとなり、後半には猛烈なビートを刻んだりとON/OFFが鮮やかな「今日も僕らは忙しい」に続いては、穏やかなピアノと歌ではじまり、指弾きで奏でるベースの包容力のある音色とコーラスが美しい「reverie」。前半はライブタイトルでもある表題曲を含め最新アルバム『DISTANCES』の収録曲が並び、そのうち2曲は現状の3人体制となって初めてリリースされた作品『pre』にも収録された曲だった。編成が変わることでodolは何と向き合い、何を見出してきたのか。どこが変わりどこは変わらないのか。そのことが言外に伝わる音と演奏が続く。

odol

odol

いくつか披露されたアルバム『DISTANCES』収録外の曲がライブ全体の流れにアルバムには無い表情を加えると同時に、起伏を生み出す役割も担っていたことも大きかった。ロックバンド然とした姿で轟かせたオルタナ/シューゲイザー系のナンバー「飾りすぎていた」、森山のピアノ独奏と語りかけるようなミゾベの歌が独りヘッドフォンで聴いているかのような没入感を生んだ「小さなことをひとつ」。力強い4つ打ちのビートがどこか晴れやかに弾んだ「未来」。70年代頃のチャンキーサウンドを彷彿とさせる先月リリースされた最新曲「不思議」も披露され、浮遊感とオリエンタルな音色&フレーズで他の楽曲とは明らかに違う景色を描きだしていた。

大井一彌(Dr)

大井一彌(Dr)

西田修大(Gt)

西田修大(Gt)

前アルバム『はためき』から『DISTANCES』の間、前回のライブハウスでのライブから今回の間。コロナ禍と被るその数年は、あらゆる人にとってさまざまな“距離”を意識せざるを得ない期間であり、アルバムタイトルはそこから付けられたのだという。そういう背景もあってだろう、ライブハウスで観客との距離が近いと演奏が変わってくるし、めちゃくちゃ楽しい、とミゾベが表情を崩す。フロアをじんわりとした幸福感が満たしたところで、その空気を一刀両断したのは「君を思い出してしまうよ」だった。テンポ自体はゆったりとしたものだが、人力で繰り出すスクラッチのような音やノイズを散りばめたそのサウンドは、バンド演奏ではあるがテクノやドラムンベースに近い。ステージ上の5人が渾身のプレイをみせたアウトロでは特大の歓声が起きた。

ライブ後半へ向けさらに畳み掛けるように繰り出したのは、清冽さとカオスな爆発力を併せ持つギターロック然とした「泳ぎだしたら」。そっと流れるようなフレーズを添える鍵盤の音色さえも、轟音の中で埋もれることのないバランス感が素晴らしい。興奮を掻き立るビビッドな照明の下演奏された、アップテンポでポストパンク調の「幽霊」がフロアを自在に揺らしたあと、本編最後に披露した「時間と距離と僕らの旅 (Rearrange)」は、2018年の『往来するもの』収録曲をリアレンジされたバージョンとしてアルバムでも最後を飾る曲。ピアノのみを伴奏に<旅に出てみようか>というミゾベの静かな歌い出しから始まり、途中で長尺のピアノソロも挟みつつ、終盤に満を持して壮大な音の奔流が会場を包むカタルシスたるや。歌い終えると「ありがとうございました、odolでした」とだけクールに告げてステージを後にした。

ミゾベリョウ(Vo)

ミゾベリョウ(Vo)

ミゾベと森山がレンコンにハマっている(ちゃんと焼くのがオススメだそう)という事実も判明したアンコールでは「夜を抜ければ」「生活」という長く演奏され愛され続けてきた2曲のほか、JR東海のCMソングとしてodolに新たな出会いをもたらしたであろう「望み」も届けられた。飾り気のないピュアなミゾベの歌声が優しく繊細なメロディをなぞり、あたたかな演奏がそれをより引き立たせていく。odolの楽曲は細かく見ていけばさまざまな要素を含んでいるし、こだわりもふんだんに込められているけれど、中心にあるのは存外素朴で普遍性のある音だったりする。ということを如実に伝えるレパートリーとして今後もライブで長く演奏されていってほしい。

森山公稀(Pf)

森山公稀(Pf)

Shaikh Sofian(Ba)

Shaikh Sofian(Ba)

全18曲、演奏したのは19曲。odolの新たな一面にたくさん触れることのできたライブだった。初めてライブで観る曲も多いし、「odolの兄貴たちと名高い」と称されたサポートメンバーの西田修大(Gt)と大井一彌(Dr)のプレイがもたらした化学変化も大きいはずだ。だが、一番大きかったのはいつにも増して外側を、こちら側を向いていたように感じたこと。バンド感で練り上げ完成度を高めたものを提示するだけにとどまらない、ナマモノ感のある、ある意味とてもバンド感のあるライブだったのだ。それはもしかすると、曲ごとに音やアクションを通し、ステージとフロアの“距離”を表現した結果でもあるかもしれない。このフォームをベースとしていくならば、彼らはこの先どんなふうに発展していくのだろうか。今年で10周年。10月にはLIQUIDROOMでのワンマン開催も控えている。この日味わった驚きの先を見にいこう。

取材・文=風間大洋 撮影=Ray Otabe

odol

odol

関連タグ

関連タグはありません

オススメ