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2022年4月23日、知床半島沖で起きた小型観光船の沈没事故は、発生から2年が経過しても知床観光に大きな影を落としている。豊かな自然を安全に体験してもらうため、北海道斜里町は「知床アクティビティリスク管理体制検討協議会」で重ねた議論をまとめた。25年の世界自然遺産登録20周年を控え、知床はどう変わるのか。【本多竹志】
協議会は19日、最終報告書を発表した。可能な限りリスクを低減させるために、何が必要か。22年8月からの議論の成果は28ページに及ぶ報告書に盛り込まれた。世界でも類を見ない、地域全体でリスク管理をルール化する「知床モデル」として実行に移すことになる。
報告書によると、知床を舞台とする自然体験メニューは、知床五湖ツアーや登山道を利用したトレッキング、観光船、流氷ウオークなど多彩で、把握されているだけでも町内で30以上の事業者が体験メニューを提供。年間数十万人の観光客らが訪れるという。
リスク管理の柱は、窓口を一本化する「知床自然アクティビティリスクマネジメント事務局(A―risk事務局)」の新設▽サイト(場所)リスクの洗い出しと格付け▽警報級など気象による催行条件の確認や共有▽観光客に向けた情報発信。協議会の座長を務めた北海道大大学院国際広報メディア・観光学院准教授の石黒侑介氏(観光地経営論)は、「観光客と事業者を守るための知床モデルは、ここが出発点になる。地域全体で可能な限りリスクを抑制することは行政や事業者が一体になることで可能だ」と話す。
新設の事務局は、リスクの洗い出しやリスク管理を実践する事業者団体を「A―risk指定団体」に認定。非加盟事業者との差別化を図り、観光客に推奨していくことでリスク管理に取り組む加盟事業者も守る。事務局が担う施策は多く、町は春から夏にかけての観光シーズン本番に向けて設置を急ぐ。
サイトリスクは3段階で、海域は最大のレベル3、利用の多い知床五湖はレベル2などに格付け。観光客も把握できるようにリスクの可視化を図る。催行判断も、警報級の気象で注意喚起や施設閉鎖の要請などを行えるよう基準を設定。小型観光船など指定団体が独自に設定する基準も盛り込んで、共有意識を高めるものにする。
知床の自然や環境の保全に努める「知床財団」事業部参事の秋葉圭太さんは「リスク管理は知床半島全体で考えていく必要があり、今後、国や道とも連携しながら実効性のあるものにしていくべきだ」と述べる。
知床財団は近年、観光客への対応に力を入れており、ヒグマの目撃情報や初心者へのネイチャーガイドの紹介など、安全に楽しんでもらうための取り組みを進めている。秋葉さんは「危険を遠ざけるだけでは知床の魅力を伝えられない。見えづらいリスクにどう対応するか。事業者にとっては経営的な問題も大きい。(観光と安全を)両立させるために、知床モデルを推進する必要性がある」という。
報告書には、講習会の開催、安全管理への支援制度、通信などの環境改善も盛り込まれた。国内外から観光客が訪れるシーズン、安全第一の対策を具体化し、観光客へ情報発信していくことが、変わる知床のアピールと信頼回復につながっていく。
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