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神への挑戦―人知の向かう先は

人知の進む先には、どんな未来があるのでしょうか。科学技術の光と影に迫ります

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神への挑戦―人知の向かう先は

ゲノムを合成し生命をデザインする 人は万物を創りうるか

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人は「生命」を生み出すか
人は「生命」を生み出すか

 なぜ地球に生命が誕生し、どのように進化したのか――。この謎を解く最大のカギが、ゲノム(遺伝情報)にある。

 ゲノムは生命の設計図とされ、ヒトなど多くの生き物で解読が進んでいる。読むだけでなく「書く」ことができれば、新しい生命が創造できる。

 この研究は「合成生物学」と呼ばれ、近年盛んになっている。きっかけは2010年だ。

同時公開の記事があります。
 ◇DIYも?生命科学のパラダイムシフト ジャーナリスト・須田桃子さん
※『神への挑戦 第2部』好評連載中。生命科学をテーマに、最先端研究に潜む倫理や社会の問題に迫ります。これまでの記事はこちら

 米国の分子生物学者、クレイグ・ベンター氏が、人為的につくったゲノムを、既存のゲノムと置き換えた「人工細菌」を作った。細胞こそ借り物だが、人間が書いた設計図で、初めて生命が動いたのだ。

 ただ、人為ゲノムは細菌などの内部で合成している。ベンター氏も同様だが、この方法では手間がかかる。

 ゲノムの材料であるDNAは、4種類の塩基でできた2本の鎖が対になった構造で、長いほど複雑な情報を含む。細菌では数百万塩基対だが、ヒトでは約30億塩基対と桁違いだ。生き物の内部では、これほど長いものを作るのは効率が悪い。

 より長いDNAを、生き物の力を借りずに試験管内で完全合成できないか――。これで注目を集めるのが、末次正幸・立教大教授(合成生物学)だ。

 例えば、新型コロナウイルスの検査で使われたPCRも、人工的にDNAを複製して増やす手法だ。しかしPCRでは100~1万塩基対が限界で、ゲノムには及ばない。

 末次さんは、DNAの断片を効果的に長くつなぐ手法や、それを試験管内で複製するための酵素の反応手法を開発。200万塩基対のDNAを試験管内で多量に作ることに成功した。

 末次さんが取り組むのは、大腸菌のゲノム(460万塩基対)の合成だ。合成したDNAはすでに170万塩基対に達しており、今年にも大腸菌に戻す。「生存には不必要な部分も天然のゲノムに含まれており、170万塩基対で十分」とみており、もし成功すれば、完全に人の手だけで作った設計図を持つ生き物ができることになる。

 この技術を元に末次さんが作ったベンチャー企業「オリシロジェノミクス」は、新型コロナワクチンを製造する米モデルナの目にとまり、23年2月に買収された。モデルナは、ワクチンに使うメッセンジャーRNAの鋳型となるDNAを大腸菌の中で合成していたが、試験管内での完全合成の方が、はるかに効率…

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