連載

見えない困窮

生活に困窮していても助けを求められるとは限らず、存在が見えなくなりがちです。そんな当事者の暮らしや思いをリポートします。

連載一覧

見えない困窮

「夫ありき」がもたらす女性の低賃金 負のループ脱却に必要なこと

  • ブックマーク
  • 保存
  • メール
  • 印刷
ジャーナリストで和光大名誉教授の竹信三恵子さん=本人提供
ジャーナリストで和光大名誉教授の竹信三恵子さん=本人提供

 女性は困窮に陥りやすいと言われて久しい。女性と労働の関係を取材し続けてきたジャーナリストで和光大の竹信三恵子名誉教授(労働社会学)は、女性の賃金が「夫ありき」で低く抑えられてきたことが困窮の背景にあると指摘する。孤立しがちで、声を上げづらい女性たちが置かれた状況を改善するには「会社の外で悩みを共有できるネットワークを持つことが大切」と訴える。【聞き手・小林杏花】

ジャーナリスト・竹信三恵子さん

 ――労働者の生活状況をどう見ていますか。

 ◆名目賃金は少し上がってきましたが、物価の高騰に追いつかず、実質賃金は下がり、生活が大変になっている人が多くなっています。1月に仙台市のフードバンクに取材に行ったのですが、「イート・オア・ヒート」という言葉を聞きました。物価高の影響で、食料を買おうとすると光熱費が払えず、光熱費を払うと食料が買えないという相談が増えているということです。生活の根幹になるものを取捨選択しなければならないほど、賃金と物価が釣り合わない状況になっています。

 ――もともと女性は貧困率が男性よりも高いため、物価高の直撃を受け、苦しい状況に置かれています。

 ◆女性が大変な状況に置かれている要因の一つは、非正規雇用の比率が高いことです。働く女性の5割以上が非正規雇用です。また、正規雇用でも女性の場合は賃金が低く抑えられています。厚生労働省の賃金構造基本統計調査(2022年)によると、一般労働者の女性の平均賃金は男性の75・7%にとどまり、厚労省のデータベースでは、正社員でも女性の平均賃金が男性の3~4割の大手企業もあります。「名ばかり正社員」と言われますが、労働時間で割ったら、最低賃金の時給に近い賃金で働いているケースも少なくありません。

 ヨーロッパなどでは均等待遇がしっかりしていて、共働きすれば生活が向上する度合いも上がります。ところが日本の場合は、女性の賃金水準が低く、それに加えて男性の非正規雇用の割合も上がっており、共働きでもなかなか楽に暮らせるとは限りません。単身だともっと苦しい状況です。

 物価高や伸び悩む賃金で生活を圧迫されている人は少なくない。困窮していても助けを求められるとは限らず、存在は見えなくなりがちだ。「見えない困窮」の背景には何があるのか。専門家へのインタビューで探る。
 第1回 認定NPO法人Homedoor理事長、川口加奈さん
 第2回 中央大教授、宮本太郎さん
 第3回 ジャーナリスト、竹信三恵子さん

 ――女性の低賃金の背景にあるものは何でしょうか。

 ◆日本の女性の働き方は「夫ありき」です。この考え方を私は「夫セーフティーネット論」と呼んでいます。女性は夫の収入があるから低い待遇でも生活できるはずだという意識が根強く、その結果、公的セーフティーネットも弱い状態です。

 賃金は家計補助という位置付けで、雇用形態も非正規で問題ないとされがちで、仕事を休んだ際の補償が乏しいなどの現状があります。低賃金であるため蓄えが少なく、年金も現役時代の収入が反映されるた…

この記事は有料記事です。

残り1786文字(全文3044文字)

あわせて読みたい

この記事の特集・連載

この記事の筆者

アクセスランキング

現在
昨日
SNS

スポニチのアクセスランキング

現在
昨日
1カ月