- ポスト
- みんなのポストを見る
- シェア
- ブックマーク
- 保存
- メール
- リンク
- 印刷
愛息の遺骨を納めた箱は仏壇のそばに残している。墓は用意したが、納骨にはためらいがある。失われた命とは対照的に、遺影の周りを飾る花は生命の息吹が満ちている。「ここにちゃんといてくれている、という気になれるから」。あの日から間もなく19年。帰宅途中に突然、命を絶たれた息子を思わない日はない。
大阪府阪南市の石橋位子(たかこ)さん(78)は、2005年4月25日のJR福知山線脱線事故(兵庫県尼崎市)で陸上自衛官だった長男孝広さん(当時34歳)を失った。当直勤務明けで、同県伊丹市の駐屯地から大阪府の自宅に帰る途中だった。通夜を営んだ27日は、石橋さんの60歳の誕生日だった。
共に山登りを楽しんだ。事故があった年の大型連休明けは、富山県の立山に行く約束をしていた。「ゆっくり歩けるルートを見つけたので、今度連れて行ってあげる」。優しさにあふれた言葉が今も耳に残る。
事故後、庭や畑で育てた四季の花々を仏前に供え続けてきた。春ならフリージアやマーガレット、カラー、スイセンといったように。孝広さんもまた、花や自然を愛した。「一生懸命に育てた花。いとおしく思ってくれるはず」
阪南市のJR阪和線沿い。満開の老木に交じってこの春も、若木の桜がちらほらと花をつけた。…
この記事は有料記事です。
残り576文字(全文1105文字)