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コーエーテクモ、襟川恵子会長の「女傑」伝説…投資の利益でゲーム事業の穴埋め

文=Business Journal編集部、協力=岩崎啓眞/ゲームプロデューサー
コーエーテクモ、襟川恵子会長の「女傑」伝説…投資の利益でゲーム事業の穴埋めの画像1
コーエーテクモホールディングスのHPより

「信長の野望」や「三國志」で知られるゲーム会社、コーエーテクモゲームスを傘下に持つコーエーテクモホールディングス(HD)は15日、2024年3月期連結業績予想の修正を発表。営業利益を下方修正した一方、経常利益・純利益を上方修正し、SNS上では一部ゲームファンの間で「本業のゲームの不振を得意の資産運用で穴埋め」「襟川恵子会長、相変わらず投資がお上手」「襟川会長が有能すぎる」などと話題を呼んでいる。コーエーテクモのユニークな経営について、そして襟川恵子会長とはどのような人物なのか、専門家の見解を交えて追ってみたい。

 コーエーテクモHDは、現社長の襟川陽一氏が家業を継ぐかたちで1978年に栃木県足利市で創業した染料工業薬品問屋・光栄(のちのコーエー)を前身とする。襟川氏は当時登場したマイコンに目をつけ、妻で現会長の襟川恵子氏が投資で貯めた資金でマイコンを購入し、80年代は主に業務ソフトなどの開発を行っていた。その後、襟川氏がマイコンで制作したゲーム『川中島の合戦』(81年)の大ヒットを契機として、同社はゲーム会社に転換。83年に発売した『信長の野望』と85年発売の『三國志』のヒット、88年の『信長の野望』の任天堂ファミリーコンピュータ(ファミコン)版の発売を経て同社は大きく成長し、日本を代表するゲーム開発会社の一社となる。

 同社の強みは歴史シミュレーションゲームだけではない。84年には会社経営シミュレーションゲーム「トップマネジメント」を発売しヒット。94年には襟川恵子氏が手掛けた世界初の女性向け恋愛シミュレーションゲーム「アンジェリーク」を発売し、乙女ゲームというジャンルを切り開いた。

 2009年にはテクモと経営統合しコーエーテクモHDが発足。現在は米国、ヨーロッパ、中国、シンガポールなど海外に子会社を持ち、主力のゲーム事業のほかにスロット・パチンコ事業、アミューズメント施設運営事業、賃貸用不動産の運用・管理事業、ベンチャーキャピタル事業も展開。売上高784億円、営業利益391億円、ROE(自己資本利益率)22%(23年3月期)を誇る優良企業として知られる。

 ゲームプロデューサーの岩崎啓眞氏はいう。

「コーエーテクモのゲームタイトルのラインとしては大きく3つあります。1つ目は『信長の野望』『三國志』『大航海時代』に代表されるコーエー系のシミュレーションゲームで、女性向けの『アンジェリーク』もこのラインに該当します。2つ目はもともとアーケードゲームを手掛けていたテクモの格闘ゲームやアクションゲームで、『DEAD OR ALIVE』『NINJA GAIDEN』がそれに当たります。3つ目がガストというブランドで、男性向けの女性を主人公としたシミュレーションゲームです」

 コーエーテクモという会社の特徴を理解するには、その生い立ちを振り返るべきだという。

「夫婦で会社を始めて、陽一氏の要望を受けた恵子氏が自腹でマイコンを買ってあげたところ、ゲームをつくる才能があった陽一氏がゲーム制作にハマってしまったというのが、ゲーム会社としての同社の始まりでした。夫がモノをつくり、妻が経理をやるという昭和によくみられた典型的な中小企業でしたが、発売したゲームが次々とヒットして会社がどんどん大きくなっていった。一方、恵子氏はコツコツと続けていた金融投資の規模が徐々に大きくなっていき、ゲームビジネスは非常に浮き沈みの激しいこともあり、いつの間にかコーエーはゲーム開発会社でありながらも恵子氏の投資に支えられる面も出てくるようになったという言い方が正しいかもしれません」(岩崎氏)

ゲームの企画の面でも優れた能力

 そんなコーエーテクモは昨年から今年にかけ、「三國志」「信長の野望」「Winning Post」「アトリエ」シリーズの新作のほか、「Rise of the Ronin」「Wo Long: Fallen Dynasty」「Fate/Samurai Remnant」などのタイトルを精力的に投入。今回の売上高・営業利益予想の下方修正の理由について「当期に発売及び配信開始したタイトルのうち、計画を下回るものがあった」としており、これらの新作タイトルのセールスが思うように伸びなかったとみられる。その一方、「金融市場を注視しながら運用を行い、営業外収支が計画を大幅に上回って推移」(同社プレスリリースより)したため経常利益・純利益の予想を上方修正。本業であるゲーム事業以外の資産運用・投資の成績が良かったため最終的な純利益は当初予想を上回る見通しとなっている。この発表を受けSNS上では一部ゲームファンから以下のような声が相次いでいる。

<襟川恵子会長、本業のゲームの不振を得意の資産運用で穴埋め>

<コーエーテクモの本業は投資やからな ゲーム事業は趣味>

<コーエーはその誕生から成長、そして今日に至るまで、女傑襟川恵子会長の剛腕に支えられている>

<天才、襟川恵子は健在か>

<また投資で巻き返してら。流石の女帝>

 確かに同社の経営において金融投資のウエイトは小さくないという。

「23年度の有価証券報告書をみると、営業外収益の受取利息が140億円、デリバティブ評価益が43億円となっており、784億円という売上高にしては大きな額となっている。ちなみに、その前年度の投資有価証券売却益は235億円にも上っている。また流動資産の現金および預金が125億円なのに対し、有価証券が81億円、建物や土地など有形固定資産が369億円、投資有価証券が1128億円となっており、ゲーム会社にしては大きな額といえる。保有資産の運用などの投資に力を入れて一定の利益を上げていると考えられる」(中堅IT企業の財務担当役員)

 では襟川恵子会長とは、どのような人物なのか。

「業界内では恵子会長の剛腕ぶりを物語るエピソードは多いです。経理を取り仕切っていたこともあり予算管理には厳しく、ゲーム制作のスケジュールで遅延などが発生すると担当者を呼びつけて𠮟りつけたり、外注業者を呼びつけて怒ったといったエピソードは多いです。その一方、恵子会長が嫌われているという話はまったく聞かないので、関わりのある人々から嫌われるタイプではないようです。剛腕の恵子会長と柔和な陽一社長という組み合わせがプラスに働き、会社を成長させた面もあるのかもしれません。

 実は恵子会長は投資の能力だけではなく、ゲームの企画の面でも優れた能力をお持ちです。現在では女性向けゲームというのは大きなジャンルとなっていますが、国内で初の女性向けゲームは、コーエーのネオロマンス系の『アンジェリーク』であり、このタイトルを企画したのが恵子会長でした。投資、企画、そして経営など多くの才能をお持ちで、まさに女傑といえる傑物型の人物という印象です」

過渡期を迎えたゲーム業界

 気になるのはゲーム業界における今後のコーエーテクモの行方だ。

「ゲーム業界全体は今、大きな過渡期を迎えています。年々、一タイトルあたりの制作費が上昇するなか、数百億円規模の制作予算を投下する『トリプルA』と呼ばれる大型タイトルが存在する一方、小規模なインディーズゲームの規模も徐々に大きくなってきており、コーエーテクモのような両者の間に位置する中規模のタイトルの領域を浸食するようになってきています。そのような動きのなかで、今後コーエーテクモがどういうゲームをつくっていくのか。同社に限った話ではありませんが、難しいタイミングを迎えつつあるとはいえます」

(文=Business Journal編集部、協力=岩崎啓眞/ゲームプロデューサー)

岩崎啓眞/ゲームプロデューサー、ゲームライター

岩崎啓眞/ゲームプロデューサー、ゲームライター

「天外魔境Ⅱ 卍MARU」「エメラルドドラゴン」「リンダキューブ」など、まずまずの名作ゲームを手がけてきたゲームプロデューサー。1994年からは「電撃PCエンジン」、「電撃PlayStation」、「電撃王」といった人気ゲーム雑誌でライターを務めてきた。
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Twitter:@snapwith

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