EGO-WRAPPIN’が醸す豊かさとあたたかさ、5年ぶりのホールツアー最終公演は溢れる愛でいっぱいに

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『EGO-WRAPPIN’“HALL LOTTA LOVE 〜ホールに溢れる愛を〜”』2024.04.14(sun)神奈川県民ホール

おそらく『ブギウギ』を見て、中納良恵を知って、EGO-WRAPPIN’を聴いて、ライブに行ってみようと思った人もいるだろう。4月14日の神奈川県民ホール、『EGO-WRAPPIN’ “HALL LOTTA LOVE 〜ホールに溢れる愛を〜”』。満員の観客の中に、5年振りのホールツアーをずっと待っていた人もいれば、今日が初めての人もいる。なんだか嬉しくて新鮮で、いい気分になる。さぁ、皆で一期一会を楽しもう。

真っ暗な中に、ぼんやり灯る赤いハンドランプ。オルガンと歌だけで厳かに始まった「下弦の月」が、少しずつ楽器の数と灯りの量を増やしながら力強さを増してゆく。2曲目「ニュースタイム」になってもステージは薄闇のまま。軽やかな八分の六拍子、涼やかなフルート、そして華麗にステップを踏み、伸びやかな歌声をホールいっぱいに響かせる中納良恵。視覚よりも聴覚にぐっと集中させる、なんともドラマチックなオープニング。

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「こんばんは。春ですね。今日はゆっくり最後まで楽しんでいってください」(中納良恵)

いきなり森雅樹のギターが激しく雄たけびを上げた。それをきっかけにバンド全体が一気に熱量を増し、ワイルドなジャズ・ブルース「女根の月」から「だるい」へ、ぐんぐんテンポを上げて突っ走る。中納良恵が豪快に叫び、パンツの裾をひるがしてフラメンコダンサーのように踊る。後半のロックンロールパートが圧巻の「morning star」を聴きながら、ふと気付くと、さっきまで座っていた一階席の大半が立ち上がってビートに乗っている。誰も何も言っていないのに、音楽のパワーで、思わず知らず立ち上がってしまったようだ。その気持ち、わかる。

「今日はみなさんと一緒に、素晴らしい時間を共にできたら。少しの間、お付き合いください。よろしくね!」(中納)

素晴らしいサックスソロを配したラヴァーズロック「Calling me」でゆったり和ませ、ハイテンションのハードロック「ちりと灰」に心はずませ、ホーン隊が大活躍するR&B色の濃い「デッドヒート」で踊らせる。今さら言うまでもなく、EGO-WRAPPIN’の音楽には英米や日本のルーツミュージックを中心に様々な要素が溶け込み、それを熟練のミュージシャンが生演奏で聴かせるから、ライブの快感はとてつもなく深くて強い。「デッドヒート」の森雅樹の強烈なソロに、またしても総立ちになる観客。幼くキュートな声色が映える「スカル」の、中納良恵の歌の表現の幅広さに酔う観客。

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淡々と、ふつふつと、美しいメロディが次々と湧き出すスローナンバー「on this bridge」から、イントロの一音で大歓声が湧く、みんな大好き「a love song」へ。心地よいレゲエのビートに揺れながら両手を右へ左へ、観客席のてんでバラバラの動きを見ているだけで楽しい。「みんな揃って」なんて誰が決めたんだろう。自由に踊ろう。スタンダード・ジャズのようなメロディアスなスローバラード「Heart Beat」の、うっとりと音に身を託す心地よさは格別だ。ブラシで叩くドラム、あたたかみあるオルガン、ミュートした粋なトランペット。中盤のスロー3曲、ひとことで言えば至福の時。「いいですね。クラゲが浮いてる感じですね」。心地よい時間と空間を、森雅樹が不思議な比喩で表現する。面白い。

icchieこと市原大資(Tp)、武嶋聡(Sax、Flute)、TUCKER(Key)、真船勝博(B)、伊藤大地(Dr)。もともと凄腕揃いだが、EGO-WRAPPIN’の楽曲では化学反応が起きて、さらに凄みが増す気がするのは贔屓目だろうか。リーダーの森雅樹、そして中納“ブギウギ”良恵の紹介にひときわ盛大な拍手が湧く。「もうちょっとネジ外していきたいと思います」と、ブギウギ良恵が煽る。さぁここからラストスパート。

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港が見える、神奈川県民ホールにーー。イケイケのスウィングジャズ「Neon Sign Stomp」の歌詞を変えて喝采を浴び、そのまま強烈なスウィングを続けて「CAPTURE」へ。真船がウッドベースをくるっと回して決めて見せる。「カサヴェテス」は、ホーン隊とピアノのソロの見せ場もたっぷりだ。中納良恵のダンスの切れ味も、ここまで激しく歌い踊ってまるで落ちない。そして高らかに鳴るサックスがラストチューン「かつて..。」の始まりを告げる。ワルツのリズムに合わせて手拍子が高まる。燃え上がったテンションをふっと鎮める、ミドルテンポのゆるやかな曲調が心地よい。ここでずっとずっと、歌を歌うよーー。中納良恵が、歌詞にはない言葉を叫ぶように放った瞬間、背中がぞくっとする。かっこいい。

アンコールは2曲。中納良恵がキーボードを弾きながら歌うゴスペルソングのような「水中の光」に、弓弾きのウッドベースとしとやかなドラムが寄り添う。木漏れ日のような光を振りまく照明が美しい。リズムレスでそっと歌い出した「サニーサイドステディ」が、ゆったり揺れる大らかなレゲエのビートに変わる。TUCKERのオルガンソロが泣けるほど素晴らしい。2階も!3階も!みんなで!と、歌い手の呼びかけに応えて歌う♪ラララの大合唱と全員の手振りで作りだす、なんて幸せな大団円。5年振りのホールツアー最終公演はやはり、溢れる愛でいっぱいだった。

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最後にもう一度メンバー紹介。そして7月21日に東京・日比谷野外大音楽堂、8月25日に大阪城音楽堂と、毎夏恒例の野外ライブ「Dance,Dance,Dance」の日程発表。メンバーが手を繋いで拍手喝采に応える。ツアーグッズのTシャツを客席に投げ込む。この豊かさとあたたかさをしっかり記憶しておこう。何と言うか、EGO-WRAPPIN’のライブには特別な栄養がある。それを味わうために、また必ずここへ来ようと思う。

取材・文=宮本英夫 撮影=仁礼博

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