サッカー元日本代表MF中田英寿氏(47)が22日、東京・六本木ヒルズアリーナで、自身がオーガナイザーを務める日本食文化の祭典「CRAFT SAKE WEEK 2024 at ROPPONGI HILLS」で坂本哲志農相(73)とトークセッションを行った。

16年に東京でスタートした同イベントで初の試みとなる体験型授業「CRAFT SAKE UNIVERCITY」の初日として、国内農業の課題とその解決について、持続可能な農業に向けて今後、必要なことなどをテーマに語り合った。

中田氏は、冒頭で「CRAFT SAKE WEEK」を始めたきっかけについて聞かれ「2009年以来、農業・お酒・工芸を中心に全国47都道府県を巡る中で、自分の知らない世界を知ることで、自分の生活も変わりました。それをみんなに伝えたいという思いからこのイベントに取り組んでいます」と説明。中田氏のコメントを受けて、坂本氏は「お酒もお料理も楽しめるイベントで本当に素晴らしいです。実際に目にして感動しています。このようなイベントが世界にもあれば、日本の食材や文化をもっと世界に発信できるのではないかと可能性を感じました」と、実際に会場に足を運び、体感した感動を口にした。

中田氏は、農業分野における課題について「海外では、日本酒を筆頭に日本の食材や文化に対しての需要が高まっている一方で、日本ではその分野に携わる人が減少していることが課題であると思います」と、日本の食文化を支える人材が減っているとの実感を口にして警鐘を鳴らした。坂本氏は「私は熊本県菊池郡大津町という農村部で生まれ、これまで暮らしてきましたが30、40年前の農村部と比較すると、現在は全く違う集落になってしまったので、我々も農家に対してこれからを考える節目の時期だと考えています」と、日本の農家、農村が変容してきていると指摘。その上で「中田さんのおっしゃる通り、我が国では人口増加による担い手不足なども課題ですが、気候変動による不作や世界各地で起こる紛争による作物の高騰、世界の人口増加による食糧争奪など、さまざまな要因が重なっていると考えられます」と、中田氏の指摘に同意しつつ、国際社会全体のさまざまな問題も、切っても切り離せないと指摘した。

新規就農者を増やす取り組みについても議論した。中田氏は「例えば、僕が『明日から中田農業法人を作ります!』と言ったら簡単に農業に参入できるものですか?」と質問すると、坂本氏は「いきなりは難しいですね」と率直に切り返した。そして「農業といのは、利益の課題ですぐにやめられるものではないので、地元の方と共存・共営してどれだけ長く続けられるか、体制を整えることが重要な鍵になります」と、現実的な目線で地域との共存・共営の必要性を強調した。

中田氏は、最後に「坂本大臣と話をして、日本の農業には、さまざまな課題があるなと感じましたが、日本の文化や伝統の担い手が減少していく今、どうやったら多くの人が農業に興味を持って、賛同してくれるのか、まずは仕組み作りから始めていきたいと思いました」と、市井の1人でも多い人が農業に興味を持ち、賛同できるような仕組み作りに意欲を見せた。一方、坂本氏は「これからの農業の鍵を握るのは、やはり若者であると感じています。若者が1度、農業を体験すれば、これまでとは違う発想や課題が出てくると思うので、それをいかに日本の農業に取り入れられるかが、日本の農業を世界に発信する大きなポイントだと考えています」と、若い世代と農業をいかにつなげるかが必要不可欠だと訴えた。

「CRAFT SAKE WEEK 2024 at ROPPONGI HILLS」は18日に開幕し、初日は「頑張れ、北陸!! の日」と題し、元日に発生した能登半島地震で被災した北陸の日本酒を飲んで酒蔵を応援しようと、北陸の酒蔵を集めてスタートした。

◆「CRAFT SAKE WEEK 2024 at ROPPONGI HILLS」 09年から日本全国47都道府県をめぐる旅をスタートし日本酒、農業、工芸を中心に、数多くの生産者の元を訪ねてきた中田氏が、400を超える酒蔵を訪問し、日本酒の奥深さと可能性を強く感じたことでプロデュース。日本全国から厳選された酒蔵が日替わりで出店し、蔵元が自ら日本酒を振る舞うことで、参加者は日本酒の選び方や楽しみ方を直接、聞くことができる。16年の東京・六本木を皮切りに福岡、福島、仙台などで開催。18年10月には、スペイン・バルセロナで開催された国際PR協会(IPRA)主催する国際PRアワードの最高峰「ゴールデン・ワールド・アワーズ」(GWA)でアート&エンターテインメント部門の最優秀賞を受賞。20年以降は新型コロナウイルスの感染拡大を受け開催が見送られてきたが、22年9月には東京・国立代々木競技場で開催された複合型都市型フェス「J-WAVE presents INSPIRE TOKYO~BEST MUSIC & MARKET~」で、3年4カ月ぶりに「CRAFT SAKE WEEKEND 2022 at INSPIRE TOKYO」を開催。23年には、六本木で本イベントとして約4年ぶりに開催し、厳選された酒蔵100蔵が集結。これまで延べ80万人以上が来場した。今回の会場デザインは「SAKA-MORI」をテーマに、建築家のクマタイチ氏が手がけた。

◆中田英寿(なかた・ひでとし)1977年(昭52)1月22日、山梨県甲府市生まれ。同県立韮崎高から95年にJリーグのベルマーレ平塚(現J1湘南ベルマーレ)に加入。98年にセリエA(イタリア)ペルージャに移籍し、ローマ、パルマ、ボローニャ、フィオレンティーナ、そしてプレミアリーグ(イングランド)ボルトンと渡り歩く。98年フランス、02年日韓、06年ドイツとワールドカップ(W杯)3大会に出場。ドイツ大会後の2006年(平18)7月3日に現役を引退。国際Aマッチ77試合出場11得点。オリンピックにも96年アトランタ、00年シドニーの2大会に出場。

引退後は世界約90カ国、150以上の都市と日本全国を旅した。その中で、日本酒のおいしさと文化的可能性を強く感じたことから、15年に「株式会社JAPAN CRAFT SAKE COMPANY」を設立。日本酒開発やイベントコンサルティング、日本酒アプリ「Sakenomy」、日本酒のトレーサビリティーシステム「Sake Blockchain」の開発など幅広い活動を行っている。また、日本酒以外にも日本文化を国内外に紹介するため、旅の軌跡を紹介するウェブメディア「に・ほ・ん・も・の」や、厳選した作り手を紹介し多言語で出版される書籍「に・ほ・ん・も・の」(KADOKAWA)など、多くのメディアで情報を発信している。