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伝統野菜の「在来品種データベース」公開 10年かけ調査した280品種 農研機構など

2024.04.19

 日本各地で栽培が引き継がれてきた伝統野菜や雑穀といった在来品種の情報をあつめた「在来品種データベース」の公開を農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が3月から正式に開始した。山形大学の研究者が10年かけて生産地に足を運んで調べた44都道府県の280品種について、特性や栽培方法といった農学から、利用法や流通など歴史的経緯が分かる情報まで紹介している。

在来品種データベースのトップ画面(農研機構の農業生物資源ジーンバンクのサイトより)
在来品種データベースのトップ画面(農研機構の農業生物資源ジーンバンクのサイトより)

 在来品種は、古くから農家が種をとったり、挿し木や芋で増やしたりして栽培してきた伝統野菜や雑穀などの作物。近代的な育種の対象とならず、遺伝的多様性に富むものの収量の少ない品種も多い。高齢化で自家採種を続ける農家が減る中、種とともに、どう栽培し、どう利用してきたかという歴史的情報が失われつつある。

 農研機構のプロジェクトにおいて、2013年から「伝統的野菜等の生息域内保存支援システムの開発」が始まり、山形大学学術研究院の江頭宏昌教授(植物遺伝資源学)が在来品種の調査を担当した。14年から15年にかけて全国の農業機関や伝統野菜に関する協会、保存会などにアンケート調査を行い、インターネット情報と照らし合わせて各地で栽培されている在来品種の情報を集約。集約したデータを元に、ひとつひとつ生産者に調査依頼をし、現地に足を運び続けた。

 農研機構の山﨑福容上級研究員(遺伝資源情報学)がデータベースのシステム構築を担当し、2023年3月に試行版として全国各地にある特徴的な在来品種40品種のデータを公開。今年3月26日から280品種で正式に公開した。

ラワンぶき(左)の高さや守口大根(右)の細長さといった在来品種の大きさが感覚的に分かる写真も現地で撮影し、データベースに収容している(山形大学の江頭宏昌教授提供)
ラワンぶき(左)の高さや守口大根(右)の細長さといった在来品種の大きさが感覚的に分かる写真も現地で撮影し、データベースに収容している(山形大学の江頭宏昌教授提供)

 データベースでは、品種ごとに、「生産地」「作物名」「品種名」「学名」「現地での呼称」「写真」「栽培方法」「品種特性」「由来・歴史」「伝統的利用法」「栽培・保存の現状」「消費・流通の現状」「継承の現状」「参考資料」「調査日」の15項目が記載されている。

 例えば北海道足寄町で生産している「ラワンぶき」では、茎の長さが2~3メートル、太さは10センチメートルになる巨大なフキで巨大化の原因が螺湾川の豊富な養分にあるといった品種特性や、栽培農家は21戸(2021年10月現在)で苗の生産と供給は農協が担っていること、収穫量は積雪が十分にあれば豊作で350トン程度、積雪がなければ凶作で250トン程度になるという現状が紹介されている。

 岐阜県や愛知県の木曽川流域の一部で栽培されている守口大根では、品種特性として、ダイコン品種の中で、最も根長が長いことで知られていることや、愛知県扶桑町の農家が育てた191.7センチメートルの守口大根が「世界最長の大根」としてギネス世界記録に認定されているとしている。名前については、大阪府守口市で栽培されていた守口大根に由来する説と、長良川流域で栽培されていた美濃干し大根、長良大根ともよばれた細根大根に由来するとの説があることも記載している。

キャベツ・札幌大球の調査で生産者に話を聞く山形大の江頭宏昌教授(写真左)とデータベースに掲載した品種情報(写真は江頭教授提供、品種情報は在来品種データベースより)
キャベツ・札幌大球の調査で生産者に話を聞く山形大の江頭宏昌教授(写真左)とデータベースに掲載した品種情報(写真は江頭教授提供、品種情報は在来品種データベースより)

 データベースの利用は、研究者に限らず一般の人も想定している。「今は流通量が少なく市場で取り扱いにくい在来品種だが、祖先が工夫して食べてきた歴史や文化的背景を持っている。生産者だけで継承を担うのは難しい状況下で、伝統野菜や雑穀などに関心のある人や、地域の食の歴史や文化を調べたい人など幅広く利用してもらい、在来品種への興味をできる限り多くの人に持ってもらいたい」と江頭教授は話す。

 今後は、国内に2000~3000品種ほどある伝統野菜を中心に、データベースに収容する在来品種を少なくとも300品種まで拡充し、より検索しやすいシステムに改修していく予定だという。

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