寿命ない社会に残る「寂しさ」とは 芥川賞作家・上田岳弘さん
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芥川賞作家の上田岳弘さんは、不老不死が実現した世界を作品で描き続けてきた。技術が進展すれば「人間の生や死は再定義を迫られる」と指摘する。寿命なき世界で、最後に残る人間らしさの鍵とは。【聞き手・寺町六花、渡辺諒】
同時公開の記事があります。
◇「浦島太郎」も現実に 冬眠がもたらすヒトの秘められた能力
※『神への挑戦 第2部』好評連載中。生命科学をテーマに、最先端研究に潜む倫理や社会の問題に迫ります。これまでの記事はこちら
次回:絶滅寸前のサイを救え
――不老不死に関心を持ったのはなぜですか。
◆純文学には、新しい手法だけでなく、現代の新しい技術や文化を追いかけていく役割もあります。不老不死と言える技術が、何らかの手法で出来上がる予感が10年前からぼんやりとあって、小説の題材として扱うのは僕としては自然なことでした。
テクノロジーは人類を進歩させるのと同じくらい、破滅させる恐れもある、表裏一体のものだと常に感じます。例えば核エネルギーは、発電にも兵器にも使えます。世間で最初に流布する言説は、明と暗、どちらかに振れがちですが、作品を書くことで明暗が見えて、僕自身がふに落ちるところがあります。
――不老不死につながる技術の発展をどうみていますか。
◆単純に期待している面もあって、僕は300歳まで生きてみたいです。今のペースで小説を書いていけば、100歳くらいまでは飽きない気がしているので、300歳まで設定しておけば満足できるかなと思います。
ただ、今までとは違う領域に人類全体が足を突っ込むことになるでしょう。単細胞生物だった頃からの、「生きなければならない」という本能の方向性が壁にぶつかり、反転するラインが不老不死です。壁を突破できてしまえば、本能についてとらえ直さなければいけません。
倫理的に良いか悪いかが決まっていない「空白地」が、これから数十年で大量に生まれてくると感じます。新型出生前診断(NIPT)で染色体の異常が見つかった胎児を産むか産まないかという判断も、倫理的な空白地と言えます。不老不死の技術もまた、自分はどう受け入れ、どうありたいのかが、一層問われていく気がします。
――冬眠にも関心があるそうですね。
◆長編の「キュー」では、自殺願望があって冬眠した青年が700年後に目覚め、寿命が廃止された先の世界に出合います。
冬眠は未来へのスキップと言えます。生きていくのがつらく、人生をスキップせざるを得ない人に有効であれば、やってみてもよいのではと思います。その場しのぎに過ぎないのかもしれませんが、保留しているうちに周りが変わったり、何かが見えてきたりする魅力…
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