「変化こそ進化」シャイトープ・佐々木想が語る1stフルアルバム『オードブル』への想い

アーティスト

SPICE

撮影=ハヤシマコ

佐々木想(Vo.Gt)、ふくながまさき(Ba.)、タカトマン(Dr.)からなる3ピースバンド・シャイトープが、2月7日に1stフルアルバム『オードブル』をCDリリースし、全国15都市・全20公演を廻る初の全国ツアーを完遂した。2022年6月に大学の仲間で結成し、精力的に楽曲を発表してきた彼らは、昨年4月に配信リリースされた「ランデヴー」がバイラルヒットして知名度はぐんと上昇。わずか結成2年弱ながら、今回のツアーは追加公演も含めて全公演が即ソールドアウトという人気ぶり。今回SPICEでは、シャイトープの今を表すアルバム『オードブル』について、ボーカルの佐々木に話を訊いた。

 「1年前にはこんなことになるなんて思ってもみなかった」

ーー「ランデヴー」がバイラルヒットして、1stフルアルバム『オードブル』を提げた初の全国ツアーは全公演が数秒でソールドアウト。そんな状況を、ご自身ではどのように見ていらっしゃいますか?

とにかくまずは、ありがたいなというところですね。まさか1年前にはこんなことになるなんて思ってもみなかったので、正直自分でめちゃめちゃびっくりしてますし、嬉しいです。

ーー大学生の時、「バンドを諦めるためにもう一度バンドを本気でやろう」と決めて活動を始められたと思いますが、その時の決意が活動を通して実になっていってるという実感もありますか?

そうですね。その時の決意があったからこそ今があるなと、現時点ですごく思えています。それから、バンドで「俺たちはやれるだけやるんだ、いくとこまでいくんだ」という気持ちが上昇してどんどん熱くなって、そこに拍車がかかっている状況ですね。自分の性格的にも「本当にできるだけやろう、やれるまでやりきろう」という感覚がありますね。

ーー夢は日本武道館、そしてスタジアムなんですね。

今はそこに向かってやり遂げたいなと、メンバーと話してますね。

ーー1stフルアルバム『オードブル』の反響はいかがですか?

このアルバムが完成した時、自分たちでも「すごく良いアルバムができたな」という感覚があって。ファンの皆はどうなんだろうというのは、ちょっと気になりながらライブをやってたんですけど、ファンの皆も好評価をくれて。やっぱり嬉しいのが「私はこの曲が好き」「僕はこの曲が好き」というのが、結構バラバラだったりして。14曲入ってるんですけど、どの曲も愛されてるんだなと感じることができて、すごく嬉しかったですね。

日常から離れすぎない距離感を大切に曲を作る

ーー今作には、既存曲9曲と新曲5曲が収録されています。本当に幅広い楽曲が入った作品になっていますね。

そうですね。

ーー以前、インタビューで「色んなタイプの曲を作ってバランスを取りたい」とおっしゃっていましたが、今回もバランスを考えられたんですか?

そうですね。バランスはすごく考えてやってますね。

ーー「一番のお気に入りであり一番苦労した」ともおっしゃっていましたが、改めて「tengoku」はどんな楽曲ですか?

「tengoku」はストレートに言うと、大切な人に向けたラブソングになるんですけど、ちょっと弱気で、ちょっと暗い人間の感情の動きから始まってる曲なんです。とにかく大切な人、「君」がいるから自分は生きていけるんだということを、どれだけ引き延ばして素敵な表現で書けるかというところで、ああでもないこうでもないとやりながら辿り着いたものが、こういう歌詞になった感じですね。

ーー歌詞はギリギリまで調整されたんですか?

最後まで粘りました。自分の曲は、締めの1〜2行を結構こだわったりするんです。だからそこも考えましたし、Cメロの<愛することは悲しいことでも それすら僕は嬉しく思うんだよ スーパーマーケットで見つけたカラフルな果実の様な>は、どういう表現が一番日常に寄り添うことができて、自分にしか書けない表現だろう。そのどっちも両立できるのはどういう表現なんだろうと、結構最後まで考えましたね。

ーー佐々木さんの歌詞には<100年先>や<100万年先>といった表現もよく出てきますよね。

100万年は生きられないけど、100年ってなんか……。

ーー今は生きられる時代ですね。

おそらく死ぬんですけど、でもなんかすごく離れた話ではない気がしていて。そういう絶妙な距離感でいうと、100年ぐらいでちょうどいいのかなと。

ーー日常から離れすぎないというのは、ひとつのポイントなんですね。

そこはテーマとして常に掲げてはいますね。

ーー「None」や「pink」でも思ったのですが、理想論じゃなくてすごく現実を歌われているなと。だから自堕落な自分や情けない自分も表現している。背中を押す曲もありますが、「頑張れ頑張れ」とハッパをかけるのではなく、<明日への回り道をダラダラ探そう>と言ってくれる歌詞が良いなと感じました。

ありがとうございます。そっちの方が寄り添えるかなというのと、自分がこうやって言われる方が嬉しかったりするんです。

たまに楽曲が未来予知のように突き刺さってくる

ーー日常を歌われていることが多いですが、その中でも恋愛ソングが多いなと感じました。そして佐々木さんの歌詞には「僕」視点と「私」視点の曲がありますが、僕視点の曲はお相手を美しく表現していて、私視点の曲は結構現実的な恋愛を描いているんじゃないかなと聴きながら感じましたが、意識はされていますか?

ガチガチに意識して作ってはないんですけど……今そうおっしゃっていただいて、すごくそうかもなと思いました。

ーー新曲の「sunny」と「天使にさよなら」で特にそう感じたんですよね。

確かに、そういう傾向があるかもしれないです。自覚はなかったですね。

ーー「sunny」は「僕」視点ですが、どういう気持ちで書かれた楽曲ですか?

「sunny」では、リアルな歌詞を書いたつもりなんです。声を大にして「今すっごいしんどいんだよね」とか「辛い。何もかもやめてしまいたい」といったネガティブな感情が取り巻いていて。病んでるとかではないんだけど、そういう日々を生きている。Bメロの<音程の取れない日々の暮らし>はそういう表現がピッタリそのままなんですけど、その中で、太陽のように晴れ間となって照らしてくれた人のことを思って書いた曲ですね。

ーー実体験を元に?

これは実体験ですね。

ーー<君とひとつになれるかい そう言うときっと君はその目を細め「貴方は貴方」 と笑うの>という。そんなことを言ってくれる人って、すごく素敵だなと思って。

ちょっと脚色はしてますけどね。ただ自分はそういうふうに受け取ったという意味で書いていますね。

ーー「天使にさよなら」はどうですか?

これは、例えば別れがあったから書いたとかではないんです。頭からフィクションで作っていったものなんですけど、たまに曲を作って、その曲が後になって未来を予知してた、みたいなことがごくたまにあるんですよ。それがこの曲でしたね。

ーー書かれたのはいつ頃ですか?

2023年の冬に書きました。未来予知で言うと、総じて見ると別れの曲なんですけど、この曲の最大のテーマは<僕は僕を生きること>。歌詞でも「大切なこと」だと言い切ってるんですけど、それがもう後になって、自分にグサグサに刺さってきていたという。

ーー本当にそうだと実感されたということですか。

これを書いた時も思っていたことだと思うんですけど、後になってより深く刺さってきたというか。色んな別れに打ちのめされたとしても、大切なのは自分を生きることだなって。

「バンドで勝ち続けてゆこう」という想いを込めている

ーー「Begin Again」はパワフルな楽曲ですが、どんな気持ちで作られましたか?

「Begin Again」は、サビに書いてあることがこの曲の核というか真髄だと思っていて。<勝ち続けてゆくんだ>という言葉に全てが詰まってると思っていますね。

ーーバンドのことを表していたりもしますか?

もちろんそうですね。最後の<僕らはもっと強くなれる>はバンドのことですね。プラス自分自身のことでもあるんです。だから最初は自分1人のことを歌っているようだけど、最後には<僕ら>という言葉を使って、皆でバンドで勝ち続けてゆこうという想いを込めています。

ーーいつ頃に書かれた曲ですか?

「天使にさよなら」と同じぐらい、2023年の冬だった気がしますね。

ーーでは、シャイトープの未来のことも頭に入れながら書かれたんですね。

そうですね。

ーー<水にネイビーを溶かしたような色の空が  夜明けのレースでフライングしてるみたい>という空の描写も印象的ですが、佐々木さんは空が好きなんですか。

空、好きなんですよ。

ーー文学的な言い回しが本当に素敵ですが、なにか本や小説からインスピレーションを受けたりされるんでしょうか?

小説とかはそんなに読んでないんですけど、他のアーティストさんの歌詞や詩集は結構参考にしてますね。

ーー曲はお風呂で浮かぶことが多いと聞きましたが、歌詞もそうですか?

歌詞も割とお風呂が多いですね。お風呂ってすごいですよね。自分の場合はシャワーなんですけど、無心で打たれてる時に考えたら浮かんでくるという。無になってるのがいいのかな。

総じて自分たちのことがわかるアルバムになった

ーータイトルチューンの「オードブル」は、新曲でアルバム締め括りの弾き語りですね。冒頭には「やってみよう」という佐々木さんの声も入っていて、距離感の近さを感じます。

これはもう最後に入れようと思って作った曲ですね。アルバムを作る上で、最後の曲は弾き語りで面白いことをしたいなと思ってて。それはアーティストの先輩方がやってるのを見たりしてきたので、自分もちょっと取り入れてみようということで。例えば最初の「そこも収録しちゃうの?」みたいなところも収録して、あえて音質も部屋で録ってるような音質に変えたりしてて。この曲こそ「本当に歌っている」という曲。それで締めるのもすごく良いなと思ったし、そういう感じで作りましたね。

ーーとても大切な一曲になったわけですね。改めて『オードブル』はどんな作品になったと思われますか?

このアルバムは、1stフルアルバムということもあるんですけど、本当にこれまでのシャイトープの想いや曲が、『オードブル』という名前の通り、1つの食べ物としておかずとして、1つの皿の上に乗っかっている。だからこそこれを聴くと、自分たちのことがわかってもらえる気がするし、自分たちの色んな面を見てもらえる気もする。総じて自分たちのことがわかるアルバムなんじゃないかなと思ってますね。

ーー今後はメジャーデビューをして新たなフィールドに進まれるわけですが、どのような活動をしていきたいと思われていますか?

自分は「変化こそ進化」という言葉がすごく好きで。メジャーデビューというのは、変わっていくこと、変わることを選んだということだと思うんです。進化するために、より上に行くためにメジャーを選んだと自分では思っているんですけど、ただ、やっぱり変わらないものはすごく大事だと思っていて。いつも応援してくれてるファンに対する愛は、変わらずに同じ熱量でずっと持ち続けていきたいし、大事にしながら自分たちができるところ、やれるところまでやりたいです。せっかくやるならちゃんと1位を取りたいし、トップを目指したいし、自分はそういう人を信じるべきだと思ってるし。すごく目標はデカいし夢は大きいので、変わっていくことと変わらないもの、どっちも大事にしながら、これからも進んでいけたらなと思っております。

ーー大阪では5月4日(土祝)・5日(日祝)の『OTODAMA’24〜音泉魂〜』など、春からはフェスやイベントへの出演が決まっていますね。これからもライブ活動も積極的にやっていきたいと?

ライブはたくさんやりたいですね。まだまだ結成して間もない超未熟なバンドなので、いっぱいライブをやって場数を踏んで、さらに皆に良いパフォーマンスができるようにしたいし、自分たちも成長したいし、各地を廻ってみたいです! 

取材・文=久保田瑛理 撮影=ハヤシマコ

関連タグ

関連タグはありません

オススメ