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SNS上でトレンド入りし、絶賛の声が相次いだ「赤シャツの漁師のおっちゃん」は今――。2023年4月15日に和歌山市の雑賀崎漁港で発生した岸田文雄首相の襲撃事件で、木村隆二被告(25)=殺人未遂罪などで起訴=を「ヘッドロック」で取り押さえた地元漁師の男性(55)は「今も誰かが亡くなっていたら、大変なことになっていたなあと思う。岸田首相をはじめ、あの場にいた他の人も無事で良かった」と振り返る。
男性は雑賀崎漁港で底引き網漁をしており、演説が始まる前に漁師仲間と「ここで何か起きたらどうするよ」と話していた。脳裏によぎったのは、22年7月に奈良市で安倍晋三元首相が銃撃された事件だった。漁港には朝から大勢の警察官らが訪れ、岸田首相を迎える準備に当たっていた。しかし「誰でも首相に近づける状態やな」と思ったことを覚えているという。そんな危機感がとっさの行動を後押しした。
岸田首相が地元特産の「足赤エビ」を試食する姿をスマホにおさめようと、前方に移動した直後の出来事だった。気付くと、後にパイプ爆弾と判明する黒っぽい筒が空を飛んでいた。次に目に入ったのは、同じようなもう1本の筒を手にした木村被告だった。「取り押さえる時は必死だったよ」。漁師とその家族ら顔なじみばかりの会場で「見たことのない若い子がいるな」とは思ったが、直前まで不審な様子はなかった。
取り押さえる様子が繰り返しテレビなどで放送され、男性は一躍時の人となった。報道陣も直接取材する機会を得ようと、漁港や自宅の周辺を探し回っていた。和歌山西署で、取り押さえた当時の状況を聴かれていた男性。赤シャツのまま外に出ると混乱が予想されたため、警察に服と帽子を借りて裏口から車に乗り込み、近くのホテルで1泊した。翌日、報道各社からの要望を受け「その後は取材に応じない」という約束で記者会見を開いた。
男性は事件後、岸田首相から直接謝意が伝えられただけでなく、警察庁長官からの感謝状も受けた。事件によって「日本のアマルフィ」と紹介されることもある雑賀崎漁港も全国区になり、県外ナンバーや観光バスで訪れる人も増えたという。
ただ、男性自身は漁師として変わらぬ生活を送っている。「通っているジムなんかで『あの時の人か』と声を掛けてもらい、友達が増えたのは良かった。こんなふうに話せるのも、大惨事にならなかったからやね」【安西李姫】
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