連載

神への挑戦―人知の向かう先は

人知の進む先には、どんな未来があるのでしょうか。科学技術の光と影に迫ります

連載一覧

神への挑戦―人知の向かう先は

捏造の韓国人研究者がよみがえらせる クローンが変える「死」

  • ブックマーク
  • 保存
  • メール
  • 印刷
国際学術誌Animals (Basel) に掲載された黄禹錫(ファン・ウソク)氏らの論文から
国際学術誌Animals (Basel) に掲載された黄禹錫(ファン・ウソク)氏らの論文から

 2010年の猛暑のある日、アラブ首長国連邦(UAE)で1頭のラクダが死んだ。「マブルカン」という名の、体重1トンを超える巨大な雄だった。

 地元メディアによると、容姿を競うコンテストで優勝を重ね、巨額の賞金を稼いだ伝説のラクダだ。

 その死から約10年後、マブルカンのクローン11頭が生まれた。“復活”に関わったのは、かつてクローンを巡る世界的な研究不正をした韓国人研究者、黄禹錫(ファンウソク)・ソウル大元教授だ。どんな人物なのか。

同時公開の記事があります。
 ◇「クローンで顧客満足を…」 捏造で科学界追われた韓国人研究者の今
※『神への挑戦 第2部』好評連載中。生命科学をテーマに、最先端研究に潜む倫理や社会の問題に迫ります。これまでの記事はこちら
 次回:冬眠 秘められた能力

ヒトクローンES細胞を捏造

 クローンは、同じ遺伝情報を持つ生物だ。実は、身近なところでその技術が使われている。

 ソメイヨシノやジャガイモなど、無性生殖する植物が代表的だ。枝を接ぎ木したり、種芋で栽培したりして、クローンを次々に増やせるためだ。

 ただ、有性生殖する動物のクローンを人工的に作るのは難しい。卵子の核を、体細胞から採った核に置き換えて「クローン胚」を作り、代理母の子宮に入れて出産させる。本物の受精卵ではないため、異常が起こりやすい。胚を移植しても、実際に生まれるクローンは数%にとどまる。

 だが黄氏には高い技術があった。ソウル大にいた05年、世界初のクローン犬を誕生させた。犬は卵子が未熟なまま排卵されるため作製が難しいとされていたが、これを克服した。

 それに先立つ04年には、ヒトのクローン胚から、さまざまな細胞になれるES細胞(胚性幹細胞)を世界で初めて作ったと発表した。そこから移植用の臓器や組織を作れば、拒絶反応が起きず、画期的な成果のはずだった。韓国では「(自然科学分野で韓国初の)ノーベル賞に最も近い」と熱狂的に支持された。

 だが発表からまもなく、研究不正の疑惑が浮上した。ソウル大は06年の最終報告書で、黄氏によるヒトクローン胚からのES細胞作製は捏造(ねつぞう)だったと結論づけた。研究費の横領などの罪で有罪判決が確定し、国民的英雄は科学界の表舞台から姿を消した。

 そんな黄氏がなぜ、UAEでラクダのクローンを作っているのか。

 黄氏へのメール取材や論文によると、黄氏は数年前、UAE政府からマブルカンのクローン作製を頼まれた。残っていたのは、液体窒素で保管された、爪ほどの大きさの皮膚の組織だけだ。保存状態はあまりよくなかった。損傷が進むと、作製はさらに難しくなる。

 黄氏…

この記事は有料記事です。

残り1955文字(全文3043文字)

あわせて読みたい

この記事の特集・連載

この記事の筆者

アクセスランキング

現在
昨日
SNS

スポニチのアクセスランキング

現在
昨日
1カ月