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神への挑戦―人知の向かう先は

人知の進む先には、どんな未来があるのでしょうか。科学技術の光と影に迫ります

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神への挑戦―人知の向かう先は

肌の細胞が薬で若返る 老いは「病」なのか 近づく不老不死

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「若返り」老いにあらがう=米Turn Biotechnologies社提供
「若返り」老いにあらがう=米Turn Biotechnologies社提供

 老いた肌に薬を注射すると、若いころのように張りが戻り、しわがなくなっていく――。

 これは、見た目だけをよくする美容整形ではない。細胞の「時計の針」を巻き戻し、肌そのものを細胞レベルで若返らせるのだ。

 まるでSFのようなこの技術は、米ベンチャー企業「ターン・バイオテクノロジーズ」が手掛ける。ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥氏が発見したiPS細胞に、その秘密があるという。どんな仕組みなのか。

同時公開の記事があります。
 ◇ずっと生きられれば子孫は「邪魔」に 霊長類学者・山極寿一さん
※『神への挑戦 第2部』好評連載中。生命科学をテーマに、最先端研究に潜む倫理や社会の問題に迫ります。これまでの記事はこちら
 次回:目指すはピンピンコロリ

 iPS細胞は、血液や皮膚などの体細胞に「山中因子」と呼ばれる遺伝子を加え、分化前の受精卵のような状態まで戻す「初期化」をして作られる。

 山中因子を働かせる時間を短く調整すると、初期化を途中で止めることができる。つまり、細胞を適度に若返らせることが可能になる。

 ターン社はこの技術を応用している。カギになるのは、新型コロナウイルスワクチンで知られるメッセンジャー(m)RNAだ。

 mRNAはもともと「運び屋(メッセンジャー)」の働きがある。山中因子をmRNAに載せて脂質の膜に包み、狙った細胞まで届ける技術を確立したのだ。

 ターン社は、ヒトの皮膚を移植したマウスで実験した。開発した薬を注射すると、実際に肌の質感やしわ、保水力が改善され、より健康的な肌になっていたという。来年にも、ヒトでの臨床試験を始める計画だ。

 狙いは皮膚だけではない。軟骨組織を若返らせる関節炎の治療、免疫を若返らせる血液のがんに効果的な治療、角膜を若返らせる緑内障の治療などの薬の開発も進めている。

 手法を開発した共同創設者のビットリオ・セバスチャーノ・米スタンフォード大准教授と、最高経営責任者(CEO)のアンニャ・クラマーさんは取材に「10年間さまざまな細胞を使い、この手法は安全であることが示唆された。山中因子が働く時間をいかに短く調整し、細胞を効果的に若返りをさせられるかがカギだ」と強調した。

 ターン社の技術は世界が注視し、2022年から日本のアステラス製薬も出資する。2人は「細胞の若返り技術を使えば、加齢で働けなくなったり虚弱になったりすることがなくなる。潜在的には寿命を延ばすことも可能だ。加齢によって生じる幅広い病気の治療ニーズを満たすことができる」と自信を見せた。

山中因子で寿命延長も

 細胞の初期化は…

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