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2021年の東京パラリンピックが契機になり、障害者スポーツへの理解が日本国内で広がろうとしている。それでも健常者の思い込みが理由で、障害者が運動する機会を奪われることも少なくないようだ。そんな時にオランダから来た「パラスポーツの伝道師」は諭してみる。「オランダでは何事も『無理』とは言いません。手を伸ばし、つながりましょう」
日本の障害者スポーツのアドバイザーを務めるオランダ人女性の挑戦を3回にわたってお届けします。4月1日まで連日午前7時に公開します。
中編:足立区が導入したオランダ流 スポーツクラブを障害者に「開く」
後編:スポーツが障害者にもたらすもの 「パラ伝道師」が気付いた価値
あるパラスポーツの体験会で見られた光景だった。一人の少年がバレーボールの体験コーナーを眺めている。ボランティアスタッフは視線に気づきながらも、声をかけあぐねていた。少年には両腕がなかったからだ。「『腕のない子がバレーボールをプレーできるの?』と困っていたのでしょう」。このオランダ人女性が声をかけると、少年は肩や頭を使って一緒にバレーボールを始めたのだ。
リタ・ファンドリエルさん(63)。オランダのパラスポーツ専門家で、国際パラリンピック委員会の理事を務めた経歴を持つ。東京大会前から日本を訪れ、障害者スポーツの推進に携わってきた。
初来日時の衝撃
1月、東京のオランダ大使館で開かれたイベントの時のことだ。ファンドリエルさんは、自身がアドバイザーを務める自治体の関係者を前に、親しげに語りかける。「誰もがゲームチェンジャー(物事の流れを変える存在)です」。最も強く訴えているのは、障害者スポーツの施設を整えるという「ハード」ではない。「日本に必要なのは『ソフト面』の変化」と考えている。
この考えは15年に初来日した頃に、見聞きした日本の障害者スポーツを巡る状況に起因している。
車いすバスケットボールのチームが体育館を予約しようとすると、「床にタイヤの跡がつく」と言われ、床を覆うシートを敷くように求められた。「けがをしても責任が取れない」として、スポーツクラブへの障害者の受け入れが進まない。あるプールでは、施設側が障害者について「水中につばを吐くかもしれない」と利用を渋っていた。
「そんなことを言われたら嫌でしょう。(健常者の)私が相手でも同じことを言えるでしょうか」とファンドリエルさんは問いかける。「大事なのはどう振る舞うか、です」。スポーツに参加するハードルを下げるには、当事者の意思を尊重することが第一歩となる。この点を日本の人たちに理解してもらおうと力を入れてきた。
冒頭で紹介した両腕がない少年をバレーボールに誘った後の出来事だった。帰ろうとする少年に「連絡先を教えてちょうだい」と話しかけると、居合わせたスタッフの間に緊張が走った。「手のない…
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