センバツ高校野球2回戦(27日・甲子園)
○青森山田6―5広陵(広島)●
ニコニコ顔で息を大きく吸って吐く。いつも通り、リラックスするためのルーティンで打席に向かった。3点を追う九回1死満塁。この土壇場でも、青森山田の背番号「20」の1番・佐藤隆樹は緊張よりも楽しさが勝った。
初球。広陵の右腕・高尾響の浮いたスプリットを逃さなかった。鋭い打球が左中間を切り裂く、起死回生の走者一掃となる同点三塁打。ベンチに向けて何度も右手を突き上げて喜んだが、「地面に立っている気がしないというか……。足がずっと震えていた」。興奮のあまり、大歓声は一切聞こえなかった。
高尾に対し、打線は苦しんだ。七回を終えて無安打。甲子園の観客も20年ぶりの無安打無得点(ノーヒット・ノーラン)の偉業を少し期待したかもしれない。それほど完全に抑え込まれていた。
チームが「高尾攻略」として掲げたのは、低めを振らないことと、浮いた球をスイングすることの2点。だが、「球が重く、直球や変化球がコースに決まっていた」と佐藤は言う。それでもベンチでは「想定内」との言葉が飛び交っており、焦りはなかった。
シンプルな攻略法を一人一人が徹底し、終盤、球威が落ちた相手エースの失投を冷静に捉えた。八回は2点差を、九回は3点差と2度追いついてタイブレークに持ち込み、最後は4番・原田純希のサヨナラ犠飛で三塁走者の佐藤が生還し、決着をつけた。ロースコアを予想していた兜森崇朗監督も「思わぬ形のゲームをよくものにできたな、と。選手の頑張りですね」とたたえた。
2年生の佐藤は昨秋、右肩を痛めて公式戦に3試合しか出場できなかった。東北王者となり、明治神宮大会まで進んだチームの躍進を喜ぶ一方、悔しさも感じていた。「ベンチにいた秋からは想像もつかないところに立っている。今が一番楽しい。もっともっと、(青森)山田の歴史を塗り替えたい」
「実りの春」を迎え、とびっきりの笑顔を見せた。【大東祐紀】
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