マイケル・E・ガーバー氏をご存じでしょうか。アメリカのビジネス誌「Inc.」において世界No.1の経営アドバイザーとして認められ、多くの中小企業や経営者に影響を与えてきた人です。マイケル・E・ガーバー氏が30年以上前に出したビジネス書『E Myth』(邦題:はじめの一歩を踏み出そう―成功する人たちの起業術)は20カ国語に翻訳され、500万部も売れており、「Inc.」誌でのアンケートでは『7つの習慣』や『ビジョナリーカンパニー』を抑えて、起業家に影響力を与えたビジネス書の第一位に選ばれています。
三流のビジネスマンは商品を売る。一流のビジネスマンは?
私は2011年からの14年間、マイケル・E・ガーバー氏から直接学び、そのメソッドを実践してきました。現在は、日本で唯一、マイケル・E・ガーバー氏の経営メソッドの指導ライセンスをもって活動をしています。この14年間の実践から、その一部をご紹介していきたいと思います。
ガーバー氏が伝えているのは、ビジネスは顧客が主役であるということ。こちらが売ってやろうってした瞬間に顧客は離れていく。自分たちのマーケティングテクニックを駆使すればするほど、ビジネスの本質を知る人たちはそれに気づく。短期的には売上が上がるかもしれませんが、長期的に見ると顧客は離れていくのです。顧客に立場なら当たり前のことが、売り手になると忘れられてしまうのです。ではどうすればいいのか。
「三流のビジネスマンは商品を売る。二流のビジネスマンは自分を売る。一流のビジネスマンは顧客を知る」。
この言葉にその本質が集約されています。
顧客を深く知れば、顧客の生活、興味関心、価値観、商品購入の背景が見える。つまり、その顧客が抱えるフラストレーション(不満足)が見えてくる。フラストレーションが見えれば、それを解消する商品を作ることで、自然と商品は流通していく、という考え方なのです。
惚れ込むべき相手を間違っている
多くのビジネスマンが犯している致命的なミス。それは、間違ったものに愛着を持ってしまうことです。具体的に言えば、自社の商品・サービス、もしくは、自分の会社に惚れ込んでしまうのです。本当に愛着を持つべき相手、惚れ込むべき相手は、あなたのクライアントです。クライアントに惚れ込むとは、すなわち、クライアントの幸福に責任を持つということです。クライアントの利益をあなたの利益よりも優先させる必要があるのです。
マーケティングテクニックを駆使して、売上を上げている人たちからすれば、まどろっこしくて遠回りの方法に思うかもしれません。しかし、長期的に発展するビジネスを作り出すには、顧客の欲求・課題をどれだけ深く知って、その人の人生にどれだけ重要な商品を生み出していくのか。それがビジネスの成功を左右するのです。
自分の商品にどれほど信念があっても、それなしでは生きられないほどであっても、たまらないほど好きで自分でもそれを使っていたとしても、さらにまたそれを好まない人がいるのが信じられないとしても、商品が流通する正当な理由はひとつしかありません。それは「顧客の欲求を満たすこと」です。だからこそ、顧客を知る努力をする必要があるという、ある意味で非常にシンプルな教えです。
顧客を知れば、商品が自然と流通する
私自身のコンサルティング先には、建設業や保険代理業が多いのですが、最初はその業界の友人を作ることから始めました。その業界の友人と酒を飲みながら、業界で大変なことや苦しいなどをたくさん聞いていきました。
また、現場を見せてもらったり、営業について行ったり、会社を見せてもらったり、同業他社を紹介してもらったりしながら、友人を増やしていく。その人たちに何かを売ろうと思っていたわけではなく、その業界の価値観、苦しみ、不合理さ、問題点、難しさ、収益が上がらない理由などをいろいろな人から聞きたかったのです。
その情報量と理解度がある一定の水準を超えると、「安東さんってもともと、うちの業界で働いていたんですか?」と聞かれるようになります。この水準まで達すると業界で働く方の気持ちになって、その苦しみを解決する商品を作っていけば、自然と商品やサービスが流通します。私は、ガーバー氏の教えを14年間実践し、このような体験を何度もしてきました。
顧客の気づいていない不満足にチャンスがある
さらにガーバー氏は起業家の「夢」についてこう述べています。ここでは起業家としていますが、実際には多くの経営者やビジネスマンにも当てはまる教えです。
《起業家の「夢」は決して個人的な夢ではない。ある状況、ある現実、修正すべき変更すべき何か、発明すべき何か、多くの変革すべき何かに強烈に気づいた時に訪れる創造的な行為である。これがビジネスを創る行為である。起業家が興味を持つのは、自分が創ったものが誰かに与える影響である。それは、エンドユーザーがこんなものがあったらいいなと長い間待ち望んでいた、または、ずっと前からそんなの無理だと質問さえもやめてしまう答えを導き出すこと。それが起業家の関心事である。起業家は会社を創る正当な理由は一つしかないことを知っている。それは、これまで誰もしたことがないほど顧客の欲求を満たすことである。》
この言葉にあるように、起業家(そして、多くの経営者やビジネスマン)は、社会の中で未解決の問題や不合理な状況を見つけ、顧客の深い欲求や長年の悩みに応えることに情熱を注ぎ、その問題を解決するための創造的な解決策を見出します。これがビジネスの本質です。そのためには、徹底的に顧客を理解する。この姿勢こそが、長期的に成功するビジネスの基盤となるのです。
まだ解決されていない問題はないか?
ガーバー氏が伝えているのは、究極の「マーケットイン」での商品作りです。顧客が求めているものを見つけ、それを再現性のある商品として世に出す。顧客の価値観は一人ひとり異なるため、それを一般化し、共通のニーズを見つけることが重要です。そして、多くの顧客が求めているものの、まだ解決されていない問題を見つけ、それを解決する商品を作ることがビジネスの核心となります。
冒頭でご紹介したガーバー氏の著書『はじめの一歩を踏み出そう―成功する人たちの起業術』は、パイの専門店をオープンしたサラさんという個人事業主の物語を通じて、起業の成功に必要な要素を教えてくれる本です。この本では、売れる人と売れない人、マーケットから支持される人と支持されない人の違いは、「顧客を知る」のレベルをどれだけ深められるかにかかっているかについて教えてくれます。
起業したい、事業を拡大したい、ご自身の業績をアップさせたいとお考えの方は、ぜひ一度、お読みになってみてください。
文/安東邦彦
あんどう・くにひこ。ブレインマークス株式会社 代表取締役。1970年大阪府生まれ。ITベンチャーの取締役を経て、2001年に中小企業向けのマーケティング支援を行う株式会社ブレインマークスを設立。その後、世界的コンサルタント、マイケルE.ガーバーと出会う。渡米して、「社長依存型の組織を脱却し、自走する組織をつくる」方法を学ぶ。現在はその経験と米国メソッドをもとに社員30人以下の中小・ベンチャー企業に『社長が不在でも事業を拡大する仕組みづくり』を支援し続け、現在までに個別での支援した企業は約200社、主催する経営塾の卒業生は1000社を超える。