グンゼ史上最高クラスの吸水速乾性を持つインナーウェア、『アセドロン』。2024年3月の発売後6か月で80万枚を売り上げ、計画比約140%を突破した。同年10月には、秋冬向け商品『ファイヤーアセドロン』が登場。シリーズ累計出荷枚数100万枚を超える、大ヒット商品となった。
今回は、グンゼアパレルカンパニー営業MD本部 商品企画部 インナーグループマネージャー藤本和彦さんと、マーケティンググループマネージャー日和崇さんに、商品開発の経緯と苦労した点、ヒットの要因を伺った。
*本稿はVoicyで配信中の音声コンテンツ「DIMEヒット商品総研」から一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。
珪藻土からヒントを得た、驚異の吸水速乾インナー
吸水性は従来品の約2倍、吸放湿性は25%アップし、肌への張り付き感を約40%オフする『アセドロン』。驚異の「汗解消テクノロジー」を実現するヒントとなったのは、自然素材「珪藻土」だった。
「皆さんも、珪藻土は水分をしっかり吸うと認知されていると思います。私たちも、最初は珪藻土を糸に練り込んで商品を作ろうと開発を始めました。ただ、珪藻土は自然の素材なので、機能の安定性やインナーに求められる“白さ”を実現するのが難しかったんです。そこで、並行して進めていた『珪藻土の構造を模した糸』を使用することにしました」(藤本さん)。
――-開発に至った経緯は?
「“着るもの”で暑さ対策をしたい方は多く、インナーの利用率も高い傾向にあります。ところが、速乾・冷感機能が備わった商品が多い中、商品に満足されている方は半数ほど。その方たちの期待に応える商品を作らなければならないと思ったのがきっかけでした」(藤本さん)。
同商品の開発に当たり、消費者ニーズのリサーチは踏み込んだものにしたという。
「定点的なニーズ調査だけだと、どうしても『暑い』『冷たくない』『もっと汗を吸ってほしい』など、どこにでもあるニーズが高くなってしまいます。そこで今回は、表面化されていないニーズを深堀りしました。言語化されていないニーズを切り取るために、自ら発話されているレビューやSNS上のコメントを洗いざらい調査したんです。『ベタつき』や『臭いがとれない』などの不満を拾えたのは、とても大きな成果だと感じています」(藤本さん)。
秋冬の汗悩みを解消する『ファイヤーアセドロン』登場
2024年10月には、秋冬向けの商品『ファイヤーアセドロン』も発売された。
「汗や湿気に対する悩みは、夏だけのものではありません。秋冬の汗悩みを解決するために開発したのが『ファイヤーアセドロン』です。『アセドロン』は、汗を吸収して拡散させる機能にこだわった商品。一方、『ファイヤーアセドロン』は、温度は閉じ込めつつ、汗が体を冷やしてしまわないよう、汗や湿気の肌戻りを防ぐ工夫をしました」(藤本さん)。
シリーズ累計出荷枚数年間100万枚を超え、順調に売れ行きを伸ばしている『アセドロン』。ヒットの裏には、“徹底的な機能性”を目指すこだわりがあったと話す。
――どのように商品テストを行ったか?
「“実感できる商品”を目指して、素材や編地、加工の組み合わせを変えたプロトタイプを数十パターン作りました。実際に着用したとき、どのような汗のかき方をして、どのように汗を処理できるのか調べるために、夏の気候を再現できるラボで、延べ100人以上にモニターをしてもらいました」(藤本さん)。
開発においては苦労も多かったが、チームの雰囲気は良かったと続ける。
「通常はインナーだけ、ソックスだけとそれぞれの舞台で開発を行うことが多かったんですが、今回はさまざまなカテゴリーのメンバーが集まって取り組む新たな試みでした。プレッシャーや課題もたくさんありましたが、メンバーは楽しみながら取り組めたように思います。また、シンプルで分かりやすい機能だったので営業部隊の理解も早く、企画・生産・販売が一体になり、走り抜けることができました」(藤本さん)。
体感できる着心地を追求!『アセドロン』ヒットの方程式
吸水速乾性を持つ商品が市場に多く出回る中、既存製品と差別化を図るために「視点を変えた」と藤本さんは振り返る。
「これまでは他社製品との差別化を優先するあまり、数値やエビデンスに重きを置くことが多かったんです。一方、『実際に体感できるのか』については配慮が不足していたように思います。そこで今回は、多くのユーザーの不満をしっかり受けとめて、どの機能をキーワードとするか特定しました。汗に対する不満を解消するのは『肌離れ性』だと分かってからは、そこを向上させることを目標に開発を進めました」(藤本さん)。
『アセドロン』には、さまざまな「見えない工夫」が凝らされているという。機能性の体感を重要視しつつ、“いつもと同じように着用できる”よう、ノウハウを結集。
「いつもと同じ感覚の中で、『何か期待できそう』と感じていただけるかがポイントだと思っています。弊社は“適度な距離感”を大事にしています。ピタッとしすぎず、かといってゆったりしすぎると吸う力が落ちてしまう。湿気や汗を吸う適度なバランスは、弊社のノウハウを最大限活かせたところです」(日和さん)。
分かりやすいネーミングやOOH広告の有効活用も、注目を集めた要因の一つだ。
「春夏用のインナーにありがちな『ドライ』や『クール』の表現はあえて使いませんでした。生活者の方にとってのベネフィットが、直感的かつスピーディーに伝わるネーミングが良いのではないかと考えたんです。覚えやすく、愛着が湧くような言葉を選びました。OOH広告は、モーメントを重視しました。バス停や電車のホームのような、ジメジメを感じやすかったり、止まって暑いと感じやすかったりするタイミング・場所に交通広告を設置したことで、すごく反響がありましたね」(日和さん)。
商品ヒットに不可欠な二つの要素は「商品力」と「伝達力」
――これまでの話を踏まえ、ずばりヒットの要因は?
「気付いていそうで気付いていなかった、『汗のべたつき』という不快の根本原因に対するソリューションに共感を得られたのが一番大きいと思います。機能性データだけではなく、“真に実感できる商品”にこだわり、チーム一丸で開発に取り組めたのも良かったです。生販企(生産・販売・企画)を実現できた手応えも感じました」(日和さん)。
最後に、今後のインナーウェア市場に求められるものについて、お二人が次のように話してくれた。
「マニアックに技術の進化を追求していくのはもちろん大切ですが、世の中ゴトに対して分かりやすいソリューションになっているかが重要だと思います。そこに、『実感が伴うか』を思考することが大事なのではないでしょうか」(日和さん)。
「機能性を求めて『何%アップ』と発信しがちですが、消費者がちゃんと理解しているかといえば、そうではないと今回の開発で分かりました。商品だけでは、お客様のニーズに沿っているものだと理解してもらえません。ソリューションも大事ですが、どうやって商品を伝えるかが重要だと思います」(藤本さん)。
汗にもいろいろな汗があり、その汗に対する不満も比例する。年中抱える汗の不快をドロンできるソリューションを仕上げたグンゼのサクセスストーリーは、これで終わらない。インナーウェアの着心地が良くなれば、すべての衣類の着心地が良くなるはず、という信条を持って、着心地のインフラ的な存在を目指す。
この先の商品展開は『アセドロン』をベンチマークとして、さらに多様なニーズに応えていけるようアップデートしたいと考えているそうだ。
どの季節においても、快適に過ごせている自分を妄想しながら、新たなラインナップに期待したい。
文/久我裕紀 取材/DIME編集部