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累計800万食を突破!忙しい現代人のニーズを捉えてヒットした味の素「パスタキューブ」誕生秘話

アットダイム 2 週 前
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2024年2月、味の素からフライパン一つで本格的なパスタを作れるキューブタイプのパスタ用調味料『パスタキューブ』が発売された。発売から半年で約800万食を売り上げ、3月のCM放送期間中には競合ひしめくパスタソース部門で売り上げ1位を獲得する大ヒット商品となっている。

今回は、味の素株式会社 コンシューマーフーズ事業部 シーズニンググループの長谷駿佑さんに、開発に至った経緯や試行錯誤した点、ヒットの要因についてお話を聞いた。

*本稿はVoicyで配信中の音声コンテンツ「DIMEヒット商品総研」から一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。

きっかけは「夏にも食べられる鍋」の深掘り?インサイトを見抜いた商品設計

パスタキューブは、日本で初めてのキューブタイプのパスタ調味料。フライパン一つで、簡単に、具材たっぷりの本格パスタを楽しめる。なぜパスタ調味料を“キューブ型”にしたのか、開発の背景を長谷さんは次のように振り返る。

「弊社にはもともと『鍋キューブ』という製品があります。鍋キューブは秋冬がメインの商材のため、夏場の売り上げがどうしても下がってしまいます。したがって、夏場の売り上げをどう上げていけばよいかを考えていたんです」

夏場の売り上げを確保するにはどうすればよいのか議論していくなかで、「パスタ」に着目するきっかけとなったのが“消費者のインサイトの深掘り”だった。

「生活者調査でも『夏に食べられるような鍋がほしい』といった声を多くいただきました。ただ、実際は暑い夏に鍋を食べる人はほとんどいません。そこで、チーム内で議論を重ねて、生活者の方々が本当に求めているのは『鍋』ではなく、『鍋くらい簡単に肉や野菜が食べられるメニュー』なのではないかと考えました」

いくつもの候補が挙がった中で、最終的にパスタに決めたという。

「パスタの市場規模は拡大し続けています。広がっている要因の一つに、夕食で手作りのパスタを食べる人が増えている点があると捉えています。タイパ志向が高まっている昨今、ワンプレートで主食や野菜、肉といった栄養素を摂れるメニューの需要が高まっています。その中で、手軽に作れるけれども、罪悪感を抱かずに、かつ栄養もしっかり摂れるワンプレートメニューとして、パスタが選ばれていると思います」

決め手となったのは、40回以上重ねたn=1インタビューだった。あえて定量調査にせず、一人ひとりの意見に耳を傾ける姿勢が大事だったと長谷さんは続ける。

「定量調査は文字通り“定量的に見れる”という点では非常に有用だと思っていますが、どうしても生活者のインサイトまでは行き着きません。数字の大きいところに飛びついてしまうと、表面的な解決策になってしまうからです。回答者が“何を考えているのか”を、しっかり時間をかけて紐解いていくことが必要だと思います」

“キューブ型”ゆえの難点とは?

パスタキューブは、誰でもおいしくパスタを作れるようさまざまな工夫が凝らされている。

「麺のプリッとした食感を向上させたり、伸びにくくしたりする“秘密の成分”を入れました。また、麺同士がくっつきにくくする成分も入っています。味がぼやけないのも特徴です。キューブに閉じ込められた成分や調味料が少しずつフライパンの中で溶け出すので、風味が飛びにくいんです。どんな水分量でもおいしくなるような味付けにしています」

キューブの形ならではの利点がある一方で、そこに課題もあったと長谷さんは振り返る。

「入れられる調味料の量が決まっているので、一つのキューブだとなかなか味が出ないことがありました。1人前2個入れたら何となく味はつくんだけど、1個だとあまり味がしなくなってしまう。ただ、生活者にとって“1キューブ1人前”という便利さは大きなポイントだと思っていたので、研究所のメンバーに無理を言って、なんとか1キューブで1人前のパスタがおいしくできるようにしてもらいました」

早茹での麺でも美味しくできる配合を探したり、キューブ状に形成したりするのにも苦労したと続ける長谷さん。あらゆる壁を乗り越えての開発だったが、開発期間はわずか2か月だったという。

「テストの報告を待つのではなく、自分もそのテストの現場に行って、研究所のメンバーと会話をしながら、その場で議論を進めるようなこともしました。報告は簡素化してもらって、代わりに多くサイクルを回してもらいましたね。パスタキューブは特別に、いち早く競合に先駆けて出せるよう、スピード感を大事にしていたんです」

パスタキューブのフレーバーは「うま辛ペペロンチーノ」と「香ばし和風醤油」の2種類。この2つのフレーバーに決めた理由について、長谷さんは次のように話す。

「パスタキューブの作り方で具材を炒める工程が入ります。そのため、オイル系のパスタと相性が良いのではと考えていました。ただ、パスタキューブでしか見たことないような味を急に出しても、生活者に受け入れられないのではと考えました。そこで、パスタとしてのメジャーな味であること、あとは具沢山にした時にもしっかり味が決まって、かつどんな具材とも相性が良いことを念頭に、いろいろフレーバーを試しましたね」

一方で、敢えてお決まりの「ミートソース」や「カルボナーラ」は避けたという。

「パスタキューブならではの具沢山なおいしさで、レトルトタイプのソースや冷凍パスタと差別化を図ることがポイントでした。かといってシンプルな味にしてしまうと、今度は自分で作れてしまう。そこで、100回以上試行錯誤を重ねた結果、馴染みがあるけれどレトルトソースや手作りとは差別化が図れる『ペペロンチーノ』と『和風醤油』に行き着きました。例えば和風醤油では、牛肉のエキスや炒めた玉ねぎのエキスを入れて、なかなか家庭では出せない奥深さを表現しています」

新しいことに取り組む“ワクワク感”を押し出したCMが話題に

パスタの商品を売り出すにあたり、課題となったのが「パスタの専門家ではない味の素が、いかにパスタキューブで作るパスタの価値を伝えるか」だったと長谷さんは話す。

「速やかに認知を獲得していくために、こだわったのがCMです。限られた時間でどのようにパスタキューブの価値を伝えるかを考えた時、作る工程の『ワクワク感』を前面に表現しようと考えました。CMではタレントの山本耕史さんと磯村勇斗さんのお2人に、キッチンで調理していただいています。男性2人を起用することで、男性でも簡単に作れる、かつ新しいことに取り組むドキドキ感がより伝わりやすくなったと思います」

店頭では、パスタキューブだからこそできる施策も行ったと続ける。

「パスタキューブはたくさんの具材を使うので、生鮮と連動した売り場を設けました。野菜の前に陳列する、チラシに野菜やお肉と一緒に載せる、キャンプの販促企画にも入れましたね。パスタキューブだからこそできる展開をしました。CMと連動して実施することで、CM期間中は多くの商品があるパスタソース市場で、カテゴリー1位の売り上げを記録することができました」

このような施策の甲斐もあり、パスタキューブは発売から半年で約800万食の売り上げを記録。お客様からも嬉しい声が届いているという。

「お客様相談センターに『こんな商品を待ってたんだよ』『パスタの概念が変わった』『これがあるから夕食にも恥ずかしくないパスタを出せるようになった』と嬉しい声をいただきました。また、開発段階で、試作品を使っていただいた主婦の方から『頻繁に外食に行く経済的余裕がなくても、自宅でお店のような具材のいっぱい入ったパスタを作ることができて助かった』との声もいただきました。生活者の方の“パスタの価値”を広げられたと感じています」

積極的なコミュニケーションがヒット商品をつくる

パスタキューブがヒットした要因について、長谷さんは次のように分析する。

「生活者のインサイトを捉えて、現代のニーズに合う新しい製品を先んじて投入できたことがヒットにつながったと思っています。例えば、コスパの良さです。パスタキューブは、1食当たり50円から60円程度で作ることができます。一般的なパスタソースは1食あたり200円前後だと考えると、経済的ですよね。もう一つが、タイパです。ワンパン調理で味つけもできてしまうので、調理時間が短縮できます」

利便性の良さだけでなく、現代の“食事情”にもマッチした点もヒットの要因だと続ける。

「野菜やお肉の栄養がたっぷり摂れるパスタは、健康志向の高まっている現代にぴったりの料理です。忙しくて家族バラバラで食事を摂る場面が増えてきている今、1キューブ1人前で量の調節がしやすく、簡単に栄養を摂れるニーズにマッチしていたのも、ヒットの要因だと思っています」

最後に、ヒット商品であるパスタキューブを作り上げた経験を振り返り、長谷さんが学んだことを話してくれた。

「実は、パスタキューブのアイデアを提案してくれた本当の生みの親は、研究所の若手社員なんです。いろいろなバリューチェーンが一体となって開発を進めたからこそ、難しいテーマでもメンバーそれぞれがモチベーションを高く持って取り組んでいけたと思います。自分の担当分野・業務以外にも、日頃からアンテナを高く張ってコミュニケーションを取っていくことが、良いアイデアに繋がると学びました」

「パスタキューブをさまざま生活者のニーズに応えられるブランドに育てていきたい」と話す長谷さん。パスタキューブの今後のラインナップにも注目したい。

取材/DIME編集部 文/久我裕紀

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