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天然温泉、天然水、天然繊維…なぜ人は「天然」という言葉に弱いのか?

アットダイム 1 月 前
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大自然に囲まれる体験を求めて旅に出ることもあれば、緑の多い公園で癒されたり、高原野菜や山菜の味を楽しむこともあるだろう。また医薬品やスキンケア製品では天然由来成分の商品を選ぶ人々も多い。我々はどうしてこれほどまでに“自然志向”なのだろうか――。

我々の根強い“自然志向”が実験で浮き彫りに

寒い時期のレジャーとしては温泉をはじめとする温浴施設に関心が向くかもしれない。

訪れる施設が決まっているなら向かうだけだが、特に決まっておらずどこへ行くか調べているうちに目に入る“天然温泉”や“源泉かけ流し”の触れ込みに心を動かされたとしても不思議ではない。どうせ行くなら本物の温泉に入りたいと思うのは多くにとってしかるべきことだろう。

この場合、本物であることはイコール自然のままであることであり、人の手が加わっていない自然な状態を良しとする“自然志向”は多くの支持を受けていそうである。

では我々はどれほど“自然志向”なのか。

米ゲティスバーグ大学をはじめとする研究チームが2024年9月に「Social Psychological and Personality Science」で発表した研究では、人々が天然アイテムと合成アイテムのどちらを選ぶのかを検証するために、4つの実験が行われている。

最初の実験は「筋力増強ドリンク」のシナリオで、参加した174人の大学生は筋力を測定するタスクを2回行ったのだが、2回目を行う前に2種類の「筋力増強ドリンク」をどちらかを選んで飲む機会が与えられた。2種類のドリンクにはそれぞれ「天然成分」と「合成成分」の表記があった。実際にはどちらのドリンクも単なる水なのだが参加者には知らされていない。

結果は予想以上ともいえるもので、参加者の84%が「天然成分」と記載されたドリンクを選択したのである。

2番目の実験では、新薬(実際は偽薬)の治験に同意して参加した52人の学生が医療施設で薬剤を投与されたのだが、薬剤は2種類あり、参加者は「天然成分」と「合成成分」の薬剤のどちらかを選んだ。そしてここでも73%が「天然成分」の薬剤を選択した。

さらに「天然カカオ」と「合成カカオ」のチョコレートを選ぶ3番目の実験では、94人の参加者の84%が「天然カカオ」を選んだ。

200人が参加した4番目の実験では「天然成分インク」または「化学合成インク」で印刷されたステッカーの魅力と品質を評価した後、参加者は協力の記念としてステッカーを1枚持ち帰ることができたのだが、66%が「天然成分インク」で印刷されたステッカーを選択した。

考えられている以上に我々は“天然成分”や“天然由来”を優先して選ぶ傾向があり、我々の根強い“自然志向”が浮き彫りになったといえる。

“自然志向バイアス”の思わぬ落し穴

まさに自然礼賛とも呼べそうな我々の“自然志向”なのだが、研究チームはこの強すぎる“自然志向”は時には偏見やバイアスになる可能性を危惧している。たとえば医薬品などは天然由来の生薬や漢方薬では限界があることは明らかである。

健康意識が高く“自然志向”の人々は食用の塩として塩化ナトリウムの成分を化学的に高めた塩ではなく、ミネラルが豊富な天然塩を使っていることだろう。

この観点から、化学調味料のグルタミン酸ナトリウムが時折話題になることがある。一部の“自然志向”から見れば、グルタミン酸ナトリウムは加工度合いが高く化学的で人体に適さないように思えるのかもしれない。しかし調味料としてのグルタミン酸ナトリウムの安全性は各機関によって確認され、適量を使っているぶんには何ら問題はないとされている。グルタミン酸ナトリウムに懸念を抱くのも、突き詰めれば“自然志向バイアス”ということになるのかもしれない。

“自然志向”は健康だけではなく、環境保護の意味合いも帯びてくる。自然由来の素材は自然環境内で分解されるため、環境に優しくサステナブルであると一般的には考えられているだろう。

プラスチック汚染が問題になる中、その解決策としての紙ストローはまさに“自然志向”であるが、日本国内では2020年からプラスチック製ストローを撤廃し紙ストローを導入したコーヒーチェーンが先日、紙ストローをバイオマス素材のストローに変更すると発表している。

このバイオマス素材のストローも生分解され、製造から廃棄までの環境負荷はむしろ紙ストローよりも低くなるといわれている。最初からこちらを採用していればよかったともいえるのだが、ひょっとすると紙ストローの登場には軽度の“自然志向バイアス”があったのかもしれない。

また“自然志向”が着る服としては木綿、麻、ウール、本革などの天然素材が優先されてくるとは思うが、実は綿花生産の環境負荷の高さは一部で問題になっており、また動物愛護の観点から毛皮製品を作らないというファッションブランドもある。

天然繊維を優先し、化学繊維や合成皮革を嫌うのもまた“自然志向バイアス”のあらわれなのかもしれない。

そして冒頭の話題に戻るが、天然温泉や源泉かけ流し温泉に特にこだわらなくとも、じゅうぶんに効能のある人工温泉も少なくないようである。

自然礼賛にはまったく異論はないのだが、個々のケースにおいて“自然志向”が常に相応しいと考えることには思わぬ落し穴もありそうだ。

※研究論文
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/19485506241276027

※参考記事
https://www.psypost.org/people-overwhelmingly-choose-natural-products-from-chocolate-to-drugs/

文/仲田しんじ

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