みなさんはクルマに付いているパドルシフトをご存知だろうか。「そんなもの百も承知、いつも使っているよ」・・・という人も、筆者を含めているはずだが、ここではせっかくパドルシフトが付いているクルマに乗っているのに、その存在を知らず、宝の持ち腐れになっている自動車ユーザーに向けて、パドルシフトの有用性を解説したい。
パドルシフトの機能は決してスポーティな走りのためだけではない
そもそもクルマのパドルシフトとは、フェラーリのF1マシンに使われ、その後1997年にフェラーリの市販車、F355というクルマにF1マチックという名前で採用されたのと言われている。そのせいか、パドルシフトはスポーティな走りをするときだけに使われる、マニア向けの機能・・・と誤解している人も少なくないはずだ。2ペダルのAT車を買って、わざわざパドルシフトでシフトをする必要なんてあるのか・・・と考える人もいるはずである。たしかに。
パドルシフトはステアリング奥の左右に付いている、船のパドル由来の装置。左側に「-」、右側に「+」のスイッチが配置されているのが一般的だ。ステアリングから手を離さずに、指先だけの操作でシフトアップ、シフトダウンができるようになる。
パドルシフトは今では軽自動車にも用意されている
今ではスポーツカーはもちろん、コンパクトカー、SUV、ミニバン、軽自動車にまで幅広く採用されている、つまり、その採用例から分かように、特殊なスポーツカー、スポーティカーだけの装備、機能ではないということだ。
パドルシフトはスムーズなスピードコントロールと減速が可能
では、一般的な乗用車に付いているパドルシフトを使いこなすことで、どんなメリットがあるのかを説明したい。
筆者の愛車にもパドルシフトは付いていて、もはやパドルシフトなしのクルマには乗りたくない!!なんて思っているほどだが、使う上での最大のメリットは、日常的な走行シーンの中でのスピードコントロールのしやすさにあると考える。
例えば、流れのいい一般道、高速道路を走っていて、前車がスピードを落としたとしよう。当然、こちらのクルマと前車の間隔が狭まり、こちらはブレーキを踏んで減速することになる(あるいはアクセルオフ)。が、同乗者がいる場合、下手にブレーキを踏むと強い減速Gがかかり、同乗者が不快になることもありがちだ。テイクアウトの飲み物を飲んでいたらこぼしてしまうかもしれないし、後席でメールやラインを打っていたら、まともに入力できなくなるかもしれない。後席に、車内でどこかにつかまれない愛犬を乗せていたとすれば、後席から落ちてケガをしてしまいかねない(ドッグベッドやハーネスなどを用い、安全に乗せてあげるのが鉄則)から危ない。
山道の下り坂でも威力を発揮する
あるいは、山道を走っていれば、カーブ手前で減速するのが基本で、長い下り坂などではスピードコントロールが不可欠になる。しかし、エンジンブレーキだけでは減速に限界があり、そのためにフットブレーキばかりを使い続けていると、ブレーキディスクとブレーキパッドが接触し続け、高熱を発生。ブレーキを踏んでも止まらなくなるフェード現象を引き起こしてしまう可能性がある。
もちろん、AT車でもシフターでギヤダウン(Bレンジなど)することは可能だが、AT車に慣れている人はシフターによるギヤダウンなど不慣れに違いなく、Dレンジのままブレーキを踏み続けたりするものだ。
そんなとき、フットブレーキを踏まずにスピードコントロール(減速)を行うのに、じつはパドルシフトは大いに役立ってくれるのだ。そう、前車との距離が縮まった時、カーブの手前、山道の下り坂といったシーンで、パドルシフトの「-」を手前に引くことでギヤダウン、減速が、下手にブレーキを踏むよりずっとスムーズに行え、乗員(愛犬)に不快感を与えにくく、また、ブレーキの負担も軽減できることになる。
ベテランドライバーのような運転が可能になる
言い換えれば、ベテランドライバーがするような、速度コントロールのための緩いブレーキング操作(急ブレーキではない)、減速が、パドルシフトによって可能になりうるということだ。なお、パドルの「-」でギヤダウンしたあとについては、自然とDレンジに戻るタイプなどがあるので、取説で確認したい。
さらに言えば、筆者が以前、9年間乗っていた、ブレーキパッドが効き優先で柔らかく減りやすいと言われるドイツ車のブレーキパッドは、日ごろからパドルシフトを駆使してスピードコントロールと緩い減速を行っていたため、整備工場で驚かれたほど減りが少なく、9年間、1回も交換しなくて済んだほどである(タイヤの摩耗も穏やかになるかも)。
もし、愛車に、今まで使っていなかったパドルシフトが付いているならば、ぜひ、スムーズなスピードコントロールと緩い減速のために、使いこなしてほしい。繰り返すが、パドルシフトはスポーティな運転のためだけにあるものでは、決してない。パドルシフトを使いこなすようになれば、同乗者から「減速がスムーズになって、運転がうまくなったね」と言われるかもしれない・・・。同乗した車内でどこかにつかまれない愛犬も大喜びのはずである。
文/青山尚暉
写真/雪岡直樹 スバル