世界B級グルメ列伝「世界はうまいで満ちている」
「絶品B級グルメ」とか「ソウルフード」と呼ばれるものは日本全国にある。で、みなさんはこう考えたことはないだろうか。「日本各地にあるんだったら世界各地にも当然B級だけど超絶うまいものがあるんじゃないか?」と。
というわけで世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターたちの集まり「海外書き人クラブ」が、居住国や旅先で出会った「絶品ソウルフード」を大紹介するシリーズ。今回は南米のブラジルから「フェイジョアーダ」をお届けする。
日本人が真っ先に思い浮かべるブラジル料理といえば、やはり「シュラスコ」だろうか。ただ実際にはブラジル人は日常的にシュラスコを食べているわけではない。日本人が毎日寿司や天ぷらを食べているわけではないのと一緒だ。
ではブラジル人は普段何を食べているのか?ブラジル人の主食、日本でいうところの白米や味噌汁のような食事といえば、「フェイジョアーダ」になるだろう。今回はブラジル人の国民食「フェイジョアーダ」について、その美味しさや人気の理由、日本の食文化との違いを探ってみた。
ブラジル人のソウルフード「フェイジョアーダ」
日本人の口にも合う!?「フェイジョアーダ」が人気な理由とは
フェイジョアーダとは、豚の足や耳、羊肉を使ったソーセージなどを塩漬けし、フェイジャオンという黒豆と一緒に煮込んだ料理で、スパイシーでコクのある味わいが特徴だ。海外の郷土料理が日本人の口に合わないということは往々にしてあるが、フェイジョアーダに関していえば、日本人にも比較的好まれている。私も大好きなブラジル料理のひとつだ。
ブラジル人家庭のフェイジョアーダ
塩漬け肉はそのままだと味が濃いため、ご飯にかけてカレーのようにして食べるのが一般的。この食べ方が日本人にも受け入れられやすい理由のひとつではないだろうか。
付け合わせにはファロッファというキャッサバ粉、コウビ(ケールの葉炒め)、サルサ(トマトとピクルスのマリネ)、そして甘味のオレンジがついてくる。カレーに福神漬けやらっきょうを合わせる感覚だろうか。この組み合わせが非常に相性抜群で、特にコウビの苦み、サルサの酸味がこってりした塩漬け肉にとても合う。
付け合わせのキャッサバ粉
同じく付け合わせのコウビ
フェイジョアーダはその味わいが魅力であるのはもちろんのこと、手軽さもブラジル人の心と体を満たしてくれる一品だ。肉、豆、お米に、甘味を含んだ4種類の付け合わせがワンプレートで提供されるフェイジョアーダは、忙しい日常の中で手軽に栄養バランスの取れる食事としても人気なのである。
フェイジョアーダのみならず、ムケッカやボボ・ジ・カマラオンといったブラジル北部、及び北東部の郷土料理もメイン食材がお米や付け合わせと一緒にワンプレートで提供されている。またオフィス街でよく見られるポルキロというビュッフェスタイルの大衆食堂では、さまざまな料理が量り売りで提供されており、忙しいビジネスマンはランチタイムをここで過ごすことも多い。
すべての料理をワンプレートに盛り、手軽に食事ができるスタイルはブラジル人のライフスタイルに合っているのだろう。ご飯は茶碗、味噌汁はお椀、主菜・副菜を盛った皿に、漬物用の小皿が並んでいる日本の食卓は、ブラジル人からすると少し驚きの光景なのかもしれない。
すべての料理がワンプレートで提供されるのがブラジル式
フェイジョアーダは土曜のお昼に食べる!?
ブラジルでは伝統的に「土曜日はフェイジョアーダの日」といわれており、特に土曜日のお昼にフェイジョアーダを食べる習慣がある。なぜなのだろうか?
その理由を探るため、まずはフェイジョアーダの起源を振り返っていきたい。
フェイジョアーダの起源については諸説あるが、一般的に広く認識されているのは、ブラジルの植民地時代にアフリカの奴隷たちによって作られたものがはじまりという説だ。
16世紀、ポルトガルからブラジルに持ち込まれた黒豆は、現地の食文化と融合しながら発展していった。奴隷たちは、本来であれば捨ててしまうような豚肉の部位(耳や内臓など)を使い、これを黒豆と一緒に煮込むことで栄養価の高い料理を作り出した。当初は貧しい奴隷たちの安価な食事として知られていたが、次第にブラジルの各地域に広まり、その人気は急上昇したという。
フェイジョアーダがブラジル全土に広がる過程で、そのレシピは多様化し、地域によって異なるバリエーションが生まれた。たとえばリオデジャネイロでは豚肉のさまざまな部位を使うのに対し、サンパウロではベーコンやソーセージがメインで豚足や耳は使わずに調理される。
またブラジル北部のパラ州ではココナッツミルクを加えたクリーミーなシチューのような味付けのフェイジョアーダも存在し、国内のさまざまな地域で各地の特性や調理法が反映されている。ブラジル国内を旅しながら、さまざまな地域で少しずつ味の異なるフェイジョアーダが楽しめるのも、この料理の面白みのひとつである。
各地域でアレンジされるフェイジョアーダ
さまざまな地域で発展しながらブラジルの国民食となったフェイジョアーダは、田舎のローカルレストランで気軽に食べられる一品でありながら、カーニバルなどの祝祭時には家庭でも振る舞われる特別な食事として、ブラジル人のソウルフードとなっていった。
フェイジョアーダは肉・豆を鍋でじっくり時間をかけて煮込むことから、家庭では特別な日や週末に作られることが多いという。仕事を終えた金曜日の夜に一晩かけて煮込み、それを土曜のお昼に家族や友人と一緒に、大人数で取り分けて食べるというのがブラジル人の習慣として次第に根付いていった。
現在でも土曜日を「Dia da feijoada(フェイジョアーダの日)」として、土曜日にフェイジョアーダを看板メニューとしているレストランが多い。土曜日だけビュッフェスタイル(食べ放題)で提供されたり、他の曜日よりも安価で食べられたりすることもある。
土曜日のお昼に賑わうフェイジョアーダの有名店
かつての奴隷たちの食事が、300年近く経った現代のブラジルにおいても、国民食として愛されているフェイジョアーダ。それは単なる伝統料理に留まらず、奴隷制度から現代社会への移行、ブラジル人の食文化、地域ごとの文化的な変化、そしてブラジル人のアイデンティティを象徴している。
日本でもブラジル料理店とうたっているレストランであれば、間違いなくフェイジョアーダが提供されているだろう。ブラジル全土で広く愛されているブラジル人のソウルフードをぜひ地球の裏側でも味わってみてはいかがだろうか。
世界はうまいで満ちている。
文・写真/生方梨和(海外書き人クラブ/ブラジル在住ライター)
フリーライター。慶応義塾大学法学部法律学科卒。2022年よりブラジル・リオデジャネイロに滞在。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。