株式会社アトラスのゲームは、独創的な世界観と魅力的なキャラクターで、長年にわたり多くのファンを魅了してきた。
2024年2月に同社から発売された『ペルソナ 3 リロード』は、発売後1週間で全世界セールス100万本を記録。アトラス史上最速となる販売数を叩き出した。これは、ファンのみならず、新規ユーザーからも絶大な支持を得ている証拠だ。
今回は、ペルソナチーム代表の和田和久さんに、アトラスの社風や最新作『ペルソナ 3 リロード』の開発秘話、ゲーム開発にかける思いについて話を聞いた。
*本稿はVoicyで配信中の音声コンテンツ「DIMEヒット商品総研」から一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。
なぜ今、18年前の『ペルソナ 3』をリメイクしたのか
アトラスは、『真・女神転生』に代表されるように、神話や悪魔をテーマにした独創的なゲーム作りで知られている。アトラスの社風について和田さんは次のように話す。
「僕もかつてはユーザーの一人でしたが、勧善懲悪ではなく、自分の選択で世界が丸ごと変わってしまうような、当時あまりなかった大胆な物語に衝撃を受けて、『かっこいい会社だな』と思っていたんです。入社当初は、癖が強い先輩が多くて、本気でカルチャーショックを受けた記憶がありますね。佇まいが普通の人ではなかったんです(笑)。
当時から、尖ったものを生み出そうという意識が職場全体で高く、それがずっと引き継がれています。僕らとしても、毒にも薬にもならないようなものではなくて、プレイした人の価値観や人生を変えるようなゲームを作ろうと意識しています」
そんな独特な社風のアトラスが手掛けるゲームタイトルの中でも、圧倒的な存在感を誇るのがペルソナシリーズ。最新作となる『ペルソナ 3 リロード』の特徴、リメイクに踏み切ったきっかけについて、和田さんはこう続ける。
「最新ナンバリングの『ペルソナ 5』と同じプレイ感覚で、18年前に発売された『ペルソナ 3』を体験できるタイトルとして開発しました。今作では見た目とゲームプレイの快適さを大幅にパワーアップさせています。
良いものは時間が経っても魅力を失わないと思っているからこそ、『ペルソナ 3』のリメイクを決めました。当時よりも『ペルソナ 5』を経てファンが拡大していて、この名作を未プレイのユーザーさんに、新作のように体験してもらいたいという思いがありました。『ペルソナ 3』は、アトラスとしても、ペルソナシリーズとしてもターニングポイントになった重要なタイトルだと思っています。僕も当時、『ペルソナ 3』のコアメンバーとして深く関わっていたので、アトラスが誇る名作をもっとたくさんの人に知ってほしいという気持ちから、このリメイクに踏み切りました」
10年以上の思いを実現へ!しかし、コストの壁が立ち塞がる
和田さんがリメイクを考え始めたのは、10年以上も前のこと。ディレクターとしてペルソナの格闘ゲーム『ペルソナ 4 ジ・アルティメット イン マヨナカアリーナ(P4U)』の開発を行なっていた頃だという。
「『P4U』は『ペルソナ 3』の2年後が舞台になっています。3のキャラ設定を作っていた時から、周りのスタッフに『ペルソナ 3のリメイクをやりたいんだよね』という話をずっとしていましたね。今の立場になり、戦略的にやっていこうと真面目に考え出したのが2016年頃でした。『ペルソナ 5』のアニメイベントの帰りに、当時パートリーダーだった山口拓也に『ディレクターをやってみない?』と声をかけたんです。『ペルソナ 3』が好きで思いの強いスタッフだったので、彼なら可能性があると思って話しかけたのが本格的に開発に踏み切ったきっかけでしたね」
開発を進めるうえで一番苦労をしたのが、社内で企画を通すことだったと和田さんは振り返る。
「企画を始めるにあたって、一番つまずいたのがタイトル起案です。正確には研究開発というかたちで始めるんですが、そこから本開発に向けて本起案を出します。
『こういう計画で商品を作ります』というのを、会社に通す部分が一番大変で。まず、お金の問題がありました。ゲーム開発は最近、5年はかかるのが当たり前になっています。『ペルソナ 3』が発売された18年前に比べてゲームを制作する期間が長期になった他、開発コストのインフレスピードも加速していたんです。当時の開発費とのギャップがあまりにも大きいので、情報を整理して、説明して理解してもらうことに苦労しましたね」
古参ファンを唸らせるために悩んだ「どこを変えるか、変えないか」
実際に開発がスタートしてからは、新しい開発環境とチームメンバーへの指示出しが骨折りだったと和田さんは話す。
「今回の『ペルソナ 3 リロード』で、開発環境を一新したんです。それまでは自社エンジンでゲーム開発をしていたんですが、今回からUnreal Engineという開発エンジンに変えました。それによって、勉強をしなければいけないことがたくさんあり苦労しましたね。
あとは、一気に多くのスタッフが入ってきたため、誰に何をしてもらうのか、指示を出していく部分にも労力がかかりました。現場の思いも尊重しながら、時間とコストを管理していかなければならないため、どう折り合いをつけていくかも大変でしたね。ただ、現場のスタッフが納得しないと良いものは生まれない。だからこそ問題や不安要素を丁寧に説明しながら、一緒に考えるようにしました」
リメイク作品を作るうえでは、「どこを変えるか、変えないか」が一番の議論になったという。
「『ストーリーは変えない』というのは、僕から前提として出していましたが、細かい部分でどこを変えてどこを変えないのかは議論しましたね。小さなエピソードを入れるのか、バトルのシステムをどうするのか。
あとは、当時と比べてセリフの表現は今の感覚に合っているのかという点も検討した部分です。3は派生作品もたくさん出ているので、そこで描かれているその後の話に繋がるようなエピソードや、過去ナンバリングのキャラクターの小ネタをさりげなく織り交ぜています。キャラクターに声を吹き込む作業については、当時よりも声優さんのタイトルの理解度が進んでいるので、序盤の演技と後半の演技の移り変わりなど、神業的にうまく演じていただけました。そういったところにも注目してもらいたいですね」
和田さんが今作のターゲットに置いたのは、古くからペルソナシリーズを愛してくれているファンたち。というのも、ファンに納得してもらえる作品なら、新規ユーザーも増えてくれるはずという考えがあったという。
「古参ファンを唸らせることができれば、新規ユーザーにも評価されると思っていました。新規の拡大や『ペルソナ 5』からのファンの定着もテーマにはしていますが、やはり制作をするうえでのターゲットは、古参ファンだったと思いますね。ペルソナは良くも悪くもよく知っている方が多いので、『わかってないヤツが作っているな』と思われたくなくて。だから過去作をリスペクトして、変える・変えないのポイントも、ちゃんとツボを押さえることが大事だったのかなと思います。『そこはちゃんとわかっているよ』と」
アトラスが考える名作を後世に残すための戦略とは?
こうして発売に至った『ペルソナ 3 リロード』は、前述の通り発売後1週間で全世界セールス100万本を記録した。ユーザーからは、たくさんの反響が寄せられているという。
「発売後には、『アトラスありがとう』『こういうリメイクでいいんだよ』など、いろいろな感想をいただきました。クリア後にXなどに投稿されている方のコメントを見て、目頭が熱くなりましたね。エンディングがとても丁寧な印象になっているので、それがこういった声に繋がっているのかなと思います。あと、『アトラスさんありがとう』という時に、『ATLUS』のスペルを『ATLAS』と間違って書いている人を見ると、逆に『新たにファンになってくれた方かな』と思ってうれしくなります(笑)」
ゲームをプレイできるハードを限定しなかったこともヒットの要因のひとつだが、それ以上の意味があると和田さんは話す。
「ゲーム業界では最近、PCユーザーが拡大しています。PCで遊べる状態にしておけば、ここから先ハードに依存しないで、どこからでも新規の方が遊べる状態になるのはとても大きいことです。
今回『ペルソナ 3』をリメイクした理由のひとつとしては、ビジネス的な見地とは全く違ったところで、『この作品を後世に残しておきたい』という思いがありました。作品文化的な視点からも、このプラットフォームで今リメイクを出したかったんです」
最後に、和田さんは今後のゲーム開発の展望についてこう話してくれた。
「アトラスは、ゲーマーの方ならそれなりに知っているけど、まだまだマイナーでマニアックなメーカーです。シリーズの認知を拡大させて、メジャー化させていくことを目指していますが、シリーズの規模やタイトルの認知度が大きくなっていくと、自分たちがウリとしている『血が通ったゲーム』を作ることがだんだんと難しくなってしまうとも考えています。
難しいし時間がかかるとは思いますが、古くからのユーザーさんに評価されているRPG職人的な僕らの良い部分、しっかりとこだわりのあるゲームを作るメーカーであることは大前提として、自分たちの強みをしっかりと開発現場に継承しつつ、シリーズを拡大していきたいですね」
取材/DIME編集部 文/久我裕紀