【勝手にブック・コンシェルジュ第8回】環境省特殊疾病対策室長の方に、佐藤哲也の『ノベル氏』を
「発言中に失礼だろう!」
伊藤信太郎環境相はあなたをそう叱責すべきでした。
5月1日に開催された水俣病の患者・被害者団体と伊藤環境相の懇談会で、あなたは部下の職員に命じて持ち時間を超過した被害者側のマイクの音量を絞ったり切ったりさせましたね。伊藤大臣の帰京時間を考慮したとのことですが、こんなめったに設けられない大事な機会なのですから、帰京予定を変更してよかったのではないでしょうか。
怒号が飛び交う会場で「私はマイクが切れたと認識していない」と責任逃れをした大臣には呆れかえるばかりですが、あなたもご承知のとおり、伊藤氏は今後も長い期間あなたがた事務方と環境省の仕事を続けていく人ではありません。どうせ年内には新しい環境相が誕生するのでしょう。
ですが、あなたがたは違います。環境省の職員であり続ける限り、水俣病という人災に遭われた皆さんと向き合っていく使命を帯びているんですから。だからこそ、腰掛け大臣の帰京予定など無視しなきゃいけませんでした。3分なんて短い時間に発言を区切ったりしないで、水俣病に認定されないまま昨年「痛いよ、痛いよ」と言いながら亡くなった妻のことをとつとつと語っていた男性の話を最後まできちんと聞くべきでした。
釈迦に説法ですが、そもそも「環境省(かつては環境庁)」が生まれたのも水俣病発見を契機としています。そんな部署で働いているあなたのことですから、当然、水俣病に苦しむ人たちの声に耳を澄ませた石牟礼道子の名著『苦海浄土』(河出書房新社)はお読みになってますよね? なので、今回は別の本をオススメしようと思います。佐藤哲也の『ノベル氏』です。
『ノベル氏』
佐藤哲也(著)
Tamanoir
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