退職を考えたとき、自己都合退職はいつから失業保険(失業手当)がもらえるかという疑問が、まず浮かぶのではないだろうか。できれば一刻も早くもらいたいところだが、自己都合退職の場合は注意が必要だ。失業保険の支給開始の時期や給付日数が、会社都合退職と違うからだ。
この記事では、自己都合退職の失業保険の支給開始時期、退職金の有無などを、会社都合退職との違いも踏まえながら解説する。
自己都合退職と会社都合退職
まずは、自己都合退職、会社都合退職が、どのような退職を指すのか、具体的に見ていこう。
■自己都合退職とは
自己都合退職とは、転職してキャリアアップしたい、海外留学したいなど、個人的な理由で退職することだ。あくまで自分の自由な意思で退職するということになる。
■会社都合退職とは
会社都合退職とは、自分の意思や希望とは関係なく、会社の都合で、一方的に退職させられることだ。例えば、会社の倒産やリストラなど、自分の責任ではないのに、退職しなければならない場合。さらに、退職勧奨に応じて退職した場合も会社都合退職だ。
ちなみに懲戒解雇された場合は、自己都合退職扱いになる。また、次のような理由での退職も会社都合退職になるので要チェックだ。
- 最初に説明を受けた労働条件が、事実と重大な違いがあった
- 上司や同僚からパワハラを受けた
- 会社が遠隔地へ移転し、通勤が難しくなった
- 父母や親族が病気や怪我をし、世話が必要になった
- 結婚に伴う転居で、通勤が難しくなった
このように、一見、自己都合だと思われるものでも、会社都合退職となるケースもある。どちらか迷う場合は、会社かハローワークに事情を話して確認してみよう。
■自己都合退職と会社都合退職の違い
ここからは、自己都合退職と会社都合退職の違いを紹介する。まず、1つ目の違いは、失業手当(失業保険)だ。
自己都合退職が実際の支給開始まで、およそ3か月以上もかかるのに対して、会社都合退職は1か月ほどで支給が始まる。そのうえ、基本的に給付される期間も長い。詳しくは、のちほど解説する。
2つ目の違いは、退職金だ。
退職金支給の条件や金額は、会社が独自に定めることができるため、正確には自社の退職金規程を確認頂くことになるが、自己都合退職は減額されることが多い。なかには不支給の場合もある。
なお、退職金の支払いに法的な義務はない。そのため、退職金制度がない会社の場合、どちらにしても退職金の支給はない。
そして、3つ目の違いは「解雇予告手当」である。解雇予告手当とは、会社都合退職の場合のみ、もらえる可能性がある手当のことだ。なぜ、このような手当があるのかというと、会社が社員を解雇する際は、遅くとも30日前に解雇を予告しなければならないと法的に義務付けられているからだ。
それができない場合は、30日に不足する日数分の平均賃金を「解雇予告手当」として支払う必要がある。そのため、即日解雇なら30日分すべて、解雇日の5日前に予告した場合は、30日-5日=25日分の解雇予告手当がもらえる。
一方、自己都合退職にこのような制度はないが、退職を申し出る時期が定められている場合がある。それでは、何日前に退職届を提出すればよいのだろうか。
・自己都合退職の申し出ルール
正社員など契約期間の定めのない場合は、2週間前までに申し出ることが求められる。
「退職日の1ヶ月前までに申し出ること」など、就業規則に別規定があることも多いが、必ずしも従う必要はない。「2週間前」の根拠が民法にあるためだ。
ただ、社会保険や離職票など退職の手続きを円滑に進めてもらうためにも、ここは会社との関係悪化を避け、就業規則に則って退職届を提出するほうが無難だろう。
話を戻して最後の4つ目の違いについては説明しよう。自己都合退職と会社都合退職の4つの違いは「転職活動への影響」だ。
自己都合退職は、短期間で何度も転職しているといったことがないなら、問題はさほどない。もし退職理由を聞かれても、キャリアアップなど積極的な理由をきちんと説明できれば、印象はよくなるだろう。
しかし、会社都合退職でも普通解雇の場合は、面接で理由を詳しく確認されることも多々ある。そのため、事前に想定問答を考えるなど、万全の対策をして面接に臨んだほうがよい。
これまで自己都合退職と会社都合退職の違いを4つ紹介してきたが、4つ目の転職活動への影響以外は、ほぼ会社都合退職に有利になっている。自己都合退職でも、有給休暇については、会社都合退職と同じく残日数を消化できる。
ただし、退職後は有給は消化できないので、退職日を決める場合は、有給休暇の残日数の確認も忘れないようにしよう。
自己都合退職と失業保険
ここからは、自己都合退職の場合の失業保険の取扱いについて解説する。
■自己都合退職でも失業保険(失業手当)はもらえる
自己都合退職でも、失業保険(失業手当)はもらえるが、さきほど述べたように、会社都合退職より給付日数は減ることが多い。ちなみに、雇用保険の被保険者であった期間に応じて90日から最大150日だ。会社都合退職の場合は、90日から最大330日。
具体例を挙げると、35歳で勤続年数12年の方の場合、自己都合退職では120日、会社都合退職では240日となる。じつに会社都合退職の2分の1の日数だ。
■失業保険はいつからもらえる?
自己都合退職は、支給開始まで、待期期間と給付制限期間という2つのハードルをクリアしなければならない。
まず待期期間は、住所地を管轄するハローワークに離職票を提出し、手続きが開始された日から通算7日間。さらに、待期の満了の翌日から2か月(過去5年間に2回以上自己都合で退職している場合、および懲戒解雇は3か月)の給付制限期間をクリアする必要がある。
その後、指定された「失業認定日」にハローワークに行き失業の認定を受けることで、約一週間後、ようやく失業保険が口座に振り込まれる。仮に2024年4月30日に退職し、2週間後の5月7日にハローワークに行き手続き開始となった場合をシミュレーションしてみよう。
- 待期期間 5/7~5/13
- 給付制限期間(2か月)5/14~7/13
- 失業認定日 7/30 ※原則として待期初日から4週間に一回ずつカウントし、給付制限期間終了後の一番早い認定日。
- 口座振込 8/6
このように、4月30日の退職から実際に入金されるまで3か月以上かかることがわかる。
■会社都合退職とのもらえるお金のタイミングの違い
会社都合退職の場合は、7日間の待期期間の満了後、最初の失業認定日に失業の認定を受けることで支給される。さきほどの例でいうと、以下のようになるだろう。
- 待期期間 5/7~5/13
- 失業認定日 6/4
- 口座振込 6/11
4月30日の退職から、ほぼ1か月での入金となる。退職後の生活を考えるうえで、この差は大きい。
■自己都合退職するときの注意点
これまで見てきたように、自己都合退職の場合は、失業保険が手もとに入るまでにかなり時間がかかり、給付日数も最大で150日(5か月)と長くはない。こういった点に退職金の額がどれぐらいになるのかも踏まえ、退職後の生活設計、資金計画を練っておくと安心だ。
また、忘れてはならないのがボーナスである。就業規則などで、支給日に会社に在籍していなければ支給しないという「支給日在籍条項」があるかどうかも調べておくことをお勧めする。場合によっては、ボーナスをもらって退職できるよう、退職日を調整するのもひとつだ。
まとめ
ビジネスパーソンにとって、退職は重大な人生の決断だ。迷い悩んだ末に選択した道を、お金が原因で後悔したくない。そのためには、失業保険(失業手当)、退職金など、退職後にもらえるお金について、自己都合退職と会社都合退職との違いに気をつけながら、シミュレーションすることが肝要だ。
文/木戸史(きどふみ)
立命館大学文学部卒業後、営業、事務職、編集アシスタントなどを経て、社会保険労務士事務所で社労士として勤務。現在はライターとして活動しており、社労士として多くの中小企業に携わった経験を生かし、ビジネスマンに役立つ法律知識をできるだけわかりやすく発信している。